自分と他人を見分ける“体のセンサー”
研究チームはまず、「人の身体は、自分で起こした刺激と外から受けた刺激をどの段階で区別しているのか」を探りました。
実験に参加したのは、幻覚や妄想といった精神病症状をもつ精神病性障害の患者35名と、健康な人35名の合計70名です。
参加者は、左腕の前腕部をゆっくりとなでる2つのタスクを行いました。
1つは自分の右手で前腕をなでる「セルフタッチ」。もう1つは、研究者が同じ場所をなでる「他者タッチ」です。
このとき、研究チームは機能的MRI(fMRI)を用いて脳活動を記録しました。
どの脳の領域がどのように反応するのかを比較することで、「自分の動作による感覚」と「外から受ける感覚」を脳がどう区別しているのかを調べたのです。
さらに別の実験では、腕にごく軽い電気刺激を与え、その反応を脊髄(せきずい)での電位として計測しました。
これにより、脳に信号が届く前の段階――つまり身体の根幹である脊髄のレベルで、自分の動作と外からの刺激をどのように処理しているのかを探ったのです。
こうした実験の背景には、次のような現象があります。
健康な人では、自分の動きで起こる感覚を脳が事前に予測し、「これは自分で触ったものだ」と理解します。
そのため、実際に触れたときの刺激は小さく感じられる傾向があります。
たとえば自分でくすぐってもくすぐったくないのは、この予測で刺激が弱められるためです。
では、精神病性障害の人ではどうなっているのでしょうか?
研究チームはその答えを、脳と脊髄の両方のデータから確かめようとしました。
さらに、身体の外側だけでなく内側の感覚(内受容感覚)にも注目しました。
参加者には、自分の心拍を感じ取ってボタンで合図する課題と、録音された心音に合わせてボタンを押す課題を行ってもらいました。
同時に心電図と脳波を記録し、脳が心臓の鼓動にどう反応しているかを示す心拍誘発電位(Heartbeat-Evoked Potential:HEP)を算出しました。
最後に、こうして得られた複数の感覚処理の指標を、患者の症状の強さと照らし合わせることで、自己と他者の区別に関わる神経の働きがどのように変化しているのかを分析しました。


























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