銅を集める正体と、その驚くべき能力
そこでチームは、現場の水質条件を細かく再現した独自の培養法「カスタマイズ培地法」を開発しました。
この方法により、現場で最も多く存在していた鉄酸化細菌とほぼ同じ系統の微生物を、世界で初めて純粋分離することに成功しました。
分離されたのは、Sideroxyarcus属に属する新規の鉄酸化細菌(TK5株)です。

実験室での試験では、この微生物が鉄を酸化すると同時に、生成した鉄(III)酸化物に銅を強固に吸着させ、銅を百分率レベルまで濃縮することが確認されました。
さらに驚くべきことに、この細菌は銅に対して非常に高い耐性を持っていました。
多くの微生物にとって銅は猛毒ですが、この分離株は日本の中性鉱山排水に含まれる濃度を大きく上回る銅濃度でも増殖可能だったのです。
ゲノム解析からは、銅を細胞外へ排出する複数の遺伝子群を備えていることも分かりました。
つまりこの微生物は、銅を集めながら、同時に銅から身を守る仕組みを持っているのです。
加えて、この細菌は二酸化炭素を唯一の炭素源とする独立栄養性微生物でした。
外部から有機物を与えなくても、鉄の酸化反応だけで生育し、銅を固定できることを意味します。
微生物が切り開く、新しい銅資源のかたち
今回の研究は、自然界で起きていた「異常な銅濃縮現象」の正体を、微生物の働きとして初めて実証しました。
しかもそのプロセスは、化学薬品や大量のエネルギーを必要としない、カーボンニュートラル型の代謝によって成り立っています。
銅資源の制約が強まる将来に向けて、こうした微生物を利用した回収技術は、環境負荷を抑えた新しい選択肢になる可能性があります。
鉱山跡地で静かに働いていた微生物は、次世代の資源循環を支える存在になるのかもしれません。

























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