似た精神疾患をもつ男女は「恋人同士」になりやすい (2/2)

「なぜ似た診断の人同士が惹かれやすいのか」4つの説明

1）選択的配偶（assortative mating）：似た考え方、似た暮らし方

人は自分と似た相手を選びやすいという考え方です。

これは性格や社会階層、宗教などに当てはめられることが多いですが、今回の研究は「思考や感じ方の傾向」まで、その範囲が広がる可能性を示唆します。

たとえば不安が強い人、日課や手順を重視する人などは、生活の組み立て方が似た相手と噛み合いやすいかもしれません。

そこに診断の共通性が重なると、関係が形成されやすくなる可能性があります。

2）近接性（proximity）：同じ場所にいる人と恋が始まる

「単純接触効果」と呼ばれる考え方では、人はよく顔を合わせる相手を選びやすいとされます。

診断が似ている人同士は、同じ社会的状況に引き寄せられることがあります。

たとえば物質使用障害の人が、物質使用が身近な場に出入りしやすいなら、そこで似た課題を抱える相手に出会う確率も上がります。

3）愛着理論（attachment theory）：恋愛で求める「安心の形」が似る

乳児期に形成される養育者との情緒的な結びつきが、成長後の対人関係のパターンに影響するという理論です。

たとえば不安型愛着スタイルの人は、見捨てられ不安が強く、近さや再確認を求めやすいとされます。

その結果、同じような欲求や反応を示す相手、あるいは自分が欲しい行動を返してくれる相手に惹かれやすくなります。

健全でない関係でも、強い承認が得られると離れがたくなることがあります。

さらに、特定の精神疾患では特定の愛着スタイルが多いという知見もあり、これが「診断が重なるカップル」を増やす一因かもしれません。

4）社会的アイデンティティ理論：分かり合える相手は「居場所」になる

人は社会集団への帰属から自尊感情を得るという考え方です。

同じ集団内の相手と結びつくと、「理解されている」「ここにいていい」という感覚が強まりやすいのです。

同じ診断や同じ苦しみを経験する相手に出会うと、説明しなくても通じる部分が増えます。

共通の経験は親密さと共感的コミュニケーションを促進しやすく、それが恋愛関係の形成を後押しする可能性があります。

恋人になりやすいのは「分かり合える土台」か

この研究が教えてくれるのは、カップルが精神疾患の診断を共有しやすいという事実です。

一方で、関係の質や持続期間、個人差まで分かるわけではありません。

それでも、もし相手が自分のつらさを「説明なしで理解できる人」だとしたら、恋愛が始まりやすいのは不思議ではありません。

「似た精神疾患をもつ男女は恋人になりやすい」という見立ては、現時点では結婚データからの示唆にとどまります。

ですが、共通の経験が距離を縮めるという当たり前の仕組みが、心の問題においても働くのだとしたら。

恋愛は、趣味の一致だけでなく、人生のしんどさの共有によっても静かに形づくられているのかもしれません。