AIに意識を宿すには「正しいコード」だけでは足りないかもしれない
AIに意識を宿すには「正しいコード」だけでは足りないかもしれない / Credit:Canva
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AIに意識を宿すには「正しいコード」だけでは足りないかもしれない (3/3)

2025.12.26 19:00:53 Friday

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合成意識を目指すなら、どこから作り替えるべきか

合成意識を目指すなら、どこから作り替えるべきか
合成意識を目指すなら、どこから作り替えるべきか / 図は、「もし人工的に“意識っぽい計算”をやらせるなら、どんなふうにシステムを組めばいいか」を描いた設計図の地図です。いちばん下の層には、水やゲル、イオン(電気を運ぶ粒)などが実際に動くような、“生き物っぽい”基盤があります。ここでは電気や濃度がなめらかに変化し、その動きが「代謝」や「エネルギーの制約」を受けながら、現実の時間スケールで進んでいきます。つまり、スタート地点は「コード」ではなく、「どういう物質が、どういうルールでゆらめき動いているか」です。 そこから少し上の階層に行くと、その連続的なゆらぎの中から、「スパイク」や「オン/オフ」などの離散的な出来事が顔を出します。たとえば、ある強さ以上の刺激が入ったときだけニューロンが一気に発火する、といった“カチッと切り替わる反応”です。この中間層では、そうした離散的な反応と、周囲に広がる連続的な電場や濃度の場がセットになって、一つのハイブリッドな計算が行われているイメージが描かれています。場のなめらかな動きが「どこでスパイクが出やすいか」を決め、そのスパイクの集まりがまた場を作り直す、という相互作用です。 さらに上の巨視的なレベルでは、脳全体に相当するような大きな領域同士の相互作用が描かれています。ここでは、離れた領域がリズムをそろえたり、ゆっくりした波のような活動が全体に広がったりして、「ネットワークとしてのまとまり」が立ち上がります。図では、この一番上に「情報理論的な指標」など、マルチスケールの活動をまとめて評価する“意識の指標候補”が置かれていて、下から上までの多層の動きがうまく閉じているかどうかを見るメーターのような役割を果たします。Credit:On biological and artificial consciousness: A case for biological computationalism

今回の総説により、意識をめぐる議論は「正しいプログラム探し」だけではすれ違いが起きやすく、「計算の素材と作法」まで含めて考える必要がある可能性が示されました。

著者たちは、「意識が成立しうる計算の土台には、デジタル計算とは違う“素材の条件”があるのではないか」という直感を丁寧に描き出しています。

この視点の社会的インパクトは小さくありません。もし意識にとって「素材」が重要なら、AIの安全性や権利についての議論は、「どれだけ自然に会話できるか」や「テストでどれだけ高得点を取るか」だけでは決めにくくなるかもしれません。

合成意識を本気でめざす研究も、アルゴリズムをさらに巨大化するだけではなく、液体やイオンを使うデバイス、ニューロモルフィックな回路、培養した神経細胞やオルガノイド(ミニのような組織)など、「計算する物質そのもの」を設計する方向に重心を移していく必要が出てくるでしょう。

論文でも、液体やイオンを使う仕組み、ニューロモルフィックな回路、培養した神経細胞やオルガノイドといった方向性が例として挙げられています。

もちろん、だからといって今すぐ「意識=素材」と決めつけることはできません。

研究者たちの考えは証明済みのものではなく、「これまでの知見から見て有力そうな候補」として提案されています。

それでも、この研究には重要な価値があります。

AIと意識の議論が、しばしば感情的な「賛成/反対」や、「テストで人間に勝てたかどうか」といったわかりやすい指標に頼りがちだったところから、一歩引いて、「脳という物質がどんな計算をしているのか」「その計算の作法を別の素材で再現できるのか」という、ゆっくり検証できるレベルに話を引き下ろしてくれるからです。

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