世界で一番「詰んだ魚」の意外なしぶとさ

研究チームはデビルズホール・ププフィッシュ約60匹(野生個体と保護下個体、さらに発生中に死亡した胚)からDNAサンプルを集め、最新のゲノム解析によって新たに生じた突然変異(親には無かったゲノム上の変化)を検出しました。
この魚は近親交配の結果、ゲノムの大部分が個体間でほぼコピー&ペースト状態になっているため、新しい変異が「ゲノムの中のぽつんと違う部分」として浮かび上がるのです。
言い換えれば、真っ白な紙に突然現れたインクの染みを探すように、ゲノム中の微細な違いからごく最近起こったDNAのミスを割り出せるわけです。
この手法により、通常なら膨大な家系図を追わないと推定が難しい世代あたりの突然変異率を、小さな絶滅危惧種であっても精度よく求めることに成功しました。
結果、デビルズホール・ププフィッシュのゲノム突然変異率は、一般的な硬骨魚類の平均値の約1.4倍(140%)の速度で変異が積み重なっている可能性が示されました。
(※デビルズホール・ププフィッシュのゲノム突然変異率1世代あたり塩基対あたり約8.1×10^-9(0.0000000081)と推定され、これは一般的な硬骨魚類の平均値約5.97×10^-9の約1.4倍です)
さらに興味深いことに、発生の途中で死亡した胚のDNAを調べると、成魚として生存できた個体群よりもさらに高い変異率を示しました。
胚で推定された突然変異率は1世代あたり約1.77×10^-8にも達し、成魚の値の約2倍近くに上りました。
一方で、突然変異の「中身」も調べられています。
すると、特定の種類の変異だけが暴走しているわけではないようでした。
ただし、DNA修復の不調を反映しやすいシグネチャがやや強く出ており、DNA修復に関わるRAD23Aという遺伝子に部分的な欠失があることも見つかっています。
この結果は何を意味しているのでしょうか。
まず第一に、デビルズホール・ププフィッシュという極小集団が遺伝子のエラー蓄積を減らす方向には進化しにくい状況にある可能性が示唆されたと言えます。
集団の小ささゆえに「突然変異率を下げる進化」が働かず、むしろ有害な変異も放置されて高いまま固定されてしまう状況です。
デビルズホール・ププフィッシュのゲノムは「自然が許容できるギリギリのレベル」で損傷を抱え続けているのです。
端的に言えば「詰んでいる」と言えるでしょう。
しかしにもかかわらず、なぜ未だにこの魚たちは生きながらえているのでしょうか?




























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