「腕そのものがメス探知センサー」だった
では、交接腕は具体的に何を感じ取っているのでしょうか。
チームは、メスの体内や皮膚から分泌される化学物質を調べた結果、プロゲステロンという性ステロイドホルモンに注目しました。
このホルモンが鍵であることは、2つの実験によって裏付けられています。
まず1つ目の実験では、オスの交接腕を切り離し、さまざまな物質に触れさせました。
すると、プロゲステロンに触れたときだけ、腕は活発に動いたのです。
つまりこの腕は、体から切り離された後でも、特定の化学物質に反応する感覚器官として機能していたことになります。
2つ目の実験では、メスの代わりにプロゲステロンを塗布したチューブを設置しました。
するとオスは、そのチューブを盛んに探り、まるで交尾しようとするかのような行動を見せました。
他の物質ではこのような反応は見られませんでした。

さらに詳しい解析から、交接腕の先端には神経と感覚細胞が高密度で存在し、CRT1と呼ばれる受容体がプロゲステロンを検知していることが分かりました。
興味深いのは、この受容体がもともと「獲物を探すためのセンサー」として知られていた点です。
つまりタコは、餌を見つけるための仕組みを、交尾にも転用している可能性があります。
また、この受容体は種ごとに異なる進化を遂げており、タコが同種と他種を見分けるための仕組みにも関わっていると考えられています。
実際、沖縄の海に生息するウデナガカクレダコ(学名:Abdopus aculeatus)でも、視覚に頼らず交尾できることが確認されており、この仕組みは広い範囲のタコ類に共通する可能性があります。
タコの恋は「触れて味わう」
今回の研究が面白いのは、単に「タコの交尾が変わっている」と示しただけではない点です。
オスの交接腕は、精包を運ぶ器官であると同時に、相手を探し、メスの化学的サインを感じ取り、正しい場所を見つけるための感覚器官でもありました。
つまりこの腕は、生殖器官とセンサーが一体化した多機能な腕だったのです。
言い換えれば、タコの恋は「触れて味わう」ことで始まるのかもしれません。





























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