現代男性の骨盤には「バネ」が組み込まれた?
では、なぜ現代男性だけ股関節の位置を変えたのでしょうか。
チームが提案したのが、歩行時の衝撃を吸収し、エネルギーを再利用するためだったという生体力学モデルです。
人は歩くたびに身体の重心が上下します。
一歩を踏み出して重心が下がれば、次の一歩では再び身体を持ち上げなければなりません。
研究者らによると、現代男性のように股関節が前方にあると、骨盤周辺の筋肉や腱に力がかかり、それらが一時的にエネルギーを蓄える「バネ」のように働く可能性があります。
重心が落ちる際の衝撃をやわらげ、そのエネルギーの一部を次の一歩で返すことで、長距離歩行を効率化できたかもしれないのです。
一方、女性では出産のために十分な産道を確保する必要があります。
研究者らは、この制約によって骨盤を男性型へ全面的に変化させることが難しく、祖先的な配置がより強く残った可能性を考えています。
とはいえ、この「天然のバネ」が実際に長距離歩行の消費エネルギーを減らしていることまで今回の研究で実証されたわけではありません。
著者ら自身も、このモデルが正しいか、また長距離歩行で正味の利益をもたらすかについては今後の実験的検証が必要だとしています。
ネアンデルタール人の骨盤は、長い間「奇妙なもの」として眺められてきました。
しかし比較対象を変えると、奇妙に見えるのはむしろ私たち現代男性のほうだったのかもしれません。
絶滅した人類の身体を調べることが、現代人の身体に隠れていた進化上の工夫を浮かび上がらせたのです。

































