外は左巻き、内は右巻き――逆向きの構造が牙を支えていた
3次元解析では、象牙質とセメント質の境界付近で線維の傾きはほぼ0度でした。
そこから内側や外側へ離れるにつれて傾きが大きくなり、内外の表面付近では約60度に達していました。
つまり、繊維が牙に横向きに巻き付いているのではなく、ほぼ縦向きの繊維が少しずつ傾きを変えることで、牙全体として左右逆向きの螺旋を作っていたのです。
さらに、この構造が単なる模様ではないことを示す現象も確認されました。
縦方向に二つに切られた牙を調べると、切断によって内部のねじり応力が解放され、半分になった牙は根元から先端にかけて180度以上、長いものでは200度以上も左向きにねじれていました。
また研究チームは、牙の主成分である象牙質だけを切り出して3点曲げ試験を行いました。
その結果、長軸方向に切り出した試料の曲げ弾性率は平均17.6GPaだったのに対し、横方向では10.8GPaとなり、牙が方向によって大きく異なる力学特性を持つことが分かりました。
長軸方向にそろったコラーゲン線維と硬い鉱物は牙を縦方向に強くする一方、繊維の配列は力の向きによって亀裂の進み方も変化させます。
さらに象牙質には木の年輪のような年間の成長層があり、層ごとに鉱物結晶の性質が変化していましたが、右巻きの大きな配列はそれらの層をまたいで維持されていました。
研究者たちは、こうした強い方向性を持つ内部構造と、外側と内側で逆向きになった螺旋が、曲げやねじれに対する安定性を高め、イッカクの牙が長くなってもほぼまっすぐ伸びられることに関係していると考えています。
ただし、成長中の牙がどのようにして左右逆向きの構造を作り出すのか、その形成メカニズムまでは今回の研究でも明らかになっていません。
それでも、2m級の牙の形が、ナノレベルの繊維のわずかな向きの違いから組み上げられていることを示した今回の研究は、生物が巨大で丈夫な構造を作る巧妙な仕組みを浮かび上がらせました。
イッカクのまっすぐな牙は、外と内で逆方向にねじれる構造を備えた、自然界ならではの「巨大な複合材料」だったのです。

































