「甘さの基準」が50年後まで残った可能性
では、なぜわずか1000日ほどの食環境が、数十年後まで影響したのでしょうか。
研究者たちは、大きく2つの経路を考えています。
1つは、体そのものへの長期的な影響です。
胎児期から乳幼児期は、臓器や代謝、免疫系などが急速に発達する時期です。
実際、砂糖制限を長く経験した人では、染色体の末端を保護する「テロメア」が長い傾向が確認されました。
その差は研究者の推定で、生物学的な老化が約2.2年少ないことに相当します。
さらに、慢性的な免疫活性化に関係するタンパク質「グランザイムB」も低く、細胞レベルでも老化が比較的ゆっくり進んでいた可能性が示されました。
もう1つは、食習慣そのものです。
配給制限を経験した人々は、約50年後になっても砂糖の摂取量が少なく、食べる量も少ないうえ、より健康的で多様な食事をしていました。
研究者たちは、幼い時期にどれほど強い甘さに慣れるかによって、その後の「甘さの基準」が形成され、成人後まで好みが残った可能性を指摘しています。
つまり、幼少期の砂糖制限は、発達中の体に影響した可能性があるだけでなく、その後何十年も続く食習慣を通じても健康に作用した可能性があるのです。
もちろん今回の結果は、「子どもには砂糖を一切与えてはいけない」と示すものではありません。
また、当時の配給制度そのものが健康政策として望ましかったという話でもありません。
この研究が浮かび上がらせたのは、人生最初の1000日間という短い時期の食環境が、本人がそれを覚えていないほど幼いころの出来事でありながら、数十年後の体や食習慣にまで痕跡を残す可能性です。
私たちが「好み」だと思っている甘さの感覚さえ、実は人生の最初期に作られているのかもしれません。


































