つらい時期は、笑い声がどう聞こえているのか?

論文によると、笑いが心の助けになるには、笑いを受けとめて反応する力が、ある程度保たれている必要があります。
ところが症状が重い時期には、その力そのものが弱ってしまうのです。
ここで大事なのは、「笑いが好き」という気持ちと、笑いを使いこなす力は別もの、という点です。
たとえば、うつ病で入院している人たちを調べた研究では、お笑いの素材を「面白い」と感じる度合いは、うつ病ではない人たちと変わりませんでした。
それでも、笑いでストレスを乗り切ったり、ジョークに心から楽しく反応したりする、一歩進んだ力は弱まっていました。
面白さは分かるのに、気持ちがついてこない、という状態です。
顔の動きをくわしく記録する方法で調べた研究でも、うつ病の人はお笑いを見て浮かんだ笑顔を、そのあとのいやそうな表情で打ち消してしまうことが多いと報告されています。
研究者たちは、ものごとを悪いほうに受けとりやすい強い「考えのかたより」が、明るい気持ちを感じにくくしているためだと説明しています。
論文は、重い時期には、ものの見方をくるりと切りかえるような複雑な心の働きが損なわれやすいとも指摘しています。
さらに、もう1つ見逃せないのが「ゲロトフォビア」です。
これは、人に笑われることへの強い恐れのことです。
うつ病の人は、健康な人や、ほかの多くの心の病気の人よりも、この恐れが強いことが分かっています。
この恐れが強い人は、まわりの笑い声を「敵意」と受けとってしまい、身がまえて笑いから遠ざかることがあります。
解説記事によると、深い落ちこみの中にいる人は、何気ない笑い声や善意のジョークさえ、からかいや拒絶のサインとして受けとってしまうことがよくあります。
だから、家族や友だちが「無理にでも元気づけよう」とすると、かえって強い不安や孤立した気持ちを招くことがあるのです。
これは専門家でも同じです。
カウンセラーがタイミングの悪い冗談を言うと、相手は「自分の苦しみを軽く見られた」「気持ちを分かってもらえていない」と受けとるおそれがあります。
別の研究は、特に治療のはじめの時期にカウンセラーが笑いを多く使うと、相手がおびやかされたように感じて不安になったり、カウンセラーの本気さを疑ったりしかねないと指摘しています。
うつ病の人は、冗談まじりの言葉より、まじめな言葉のほうに良い反応を示したという研究もあります。
実際、うつ病の人を含む心の病気の患者に、お笑いの舞台の練習や、コメディ動画についての話し合いをしてもらった研究では、どちらの取り組みでも症状や気分は良くなりませんでした。
笑いで困難を乗り切る考え方をありがたく感じた人もいましたが、急性期の症状がある人には、それも見られなかったといいます。
いちばんつらい時期の笑いは、まだ受けとる準備のできていない贈り物のようなものなのかもしれません。



























