力になるのは「気をそらす笑い」、自虐ネタには注意

では、笑いはどんな時に、どんな形なら力になるのでしょうか?
手がかりになるのは、症状が軽い人を対象にした研究です。
ある研究では、診断がつくほどではない軽い落ちこみのある若者に、コメディ動画を週6日、4週間見てもらいました。
比べるために、別のグループには勉強用の動画を見てもらっています。
落ちこみの症状はどちらのグループでも減りましたが、気分や人とのかかわりが良くなったのは、コメディを見たグループだけでした。
また、「その日にあった面白いこと3つ」を毎晩7日間書き出し、なぜ面白かったのか、どんな気持ちになったのかも書きそえる練習もあります。
患者として集めたのではない一般の大勢の人がこれを行ったところ、落ちこみの症状が減って心の元気さが増し、その効果は最大で3か月続きました。
ただし、この練習をほかの笑いの取り組みと組みあわせた別の研究では、うつ病の人での効果は短い間しか続きませんでした。
笑いの「種類」も大事です。
博士の分析では、いちばん安全で心に良いのは、つらいことから一時的に気をそらしてくれる笑いです。
気楽な笑い話や、誰かをネタにしないお笑いがそれにあたります。
反対に、今まさに苦しんでいる自分の状況をネタにして笑おうとすると、頭にかなりの負担がかかり、裏目に出ることがよくあります。
自分を責める考えがふくらみ、気分がさらに沈んでしまうのです。
分析は、ブラックジョークや、ネットに出回る自虐的なネタ(ミーム)にも注意をうながしています。
うつ病の人は「分かる、これ自分だ」と感じられるので、こうしたネタにひかれやすく、その場では気持ちを認めてもらえたように感じることもあります。
しかし、絶望や「どうせ自分はダメだ」といった中身の笑いをずっと見たり共有したりしていると、心の奥の悲観的な思いこみがかえって固まってしまうおそれがあると、博士は指摘しています。
そもそも、笑いは治療の万能薬にはなりません。
幅広い人を対象にした研究をまとめた別の分析では、うつや不安に対する笑いの取り組みの効果は、笑い以外の方法のおよそ半分ほどでした。
博士も「笑いはうつ病の万能薬ではなく、しっかりした治療の代わりにもなりませんが、その一部にはなれます」と話しています。
そして「役に立つためには、治療の段階と、その人の今の心と頭の状態に合わせる必要があります」と続けます。
この注意は、スマホのアプリやチャットボット、生成AIを使った心のケアが広がる今、ますます大切になります。
人の専門家が見守らないまま機械が冗談を届けると、相手のつらさを読みちがえて、症状を悪くしてしまうおそれがあるからです。
博士は、笑いを扱う専門家のための特別な教育が必要だとも訴えています。
笑いは心を立て直す力を持っていますが、それを受けとれる時期と形を見きわめることが大切なのです。
お笑いでいちばん大切なのは「間」だと言いますが、心の支えとしての笑いにも、差し出すタイミングという「間」が欠かせないようです。



























