1848通りでふるいにかけたら、血小板が残った

「全員の平均では効かない」の中に、効いている人が隠れていないか。
その答えを探すために、研究チームはまず、公開データベースから5182通りの遺伝的な点数をダウンロードし、参加者一人ひとりについて計算しました。
身長、コレステロールの値、さまざまな病気のなりやすさ。
こうした体質は、一つの遺伝子を持っているかどうかでは決まりません。
何十万もの小さな遺伝子の違いを少しずつ足し合わせ、その人がどちらへ傾きやすいかを1つの数字にしたものが、遺伝的な点数(ポリジェニックスコア)です。
世界中の研究者が作ってきたそうした点数が、公開データベースに並んでいます。
研究チームはこのうち、計算の精度が保てる1848通りを取り出し、片端から同じことを調べました。
その点数が高い人と低い人とで、アスピリンの効き方が違っていないか。
ふるいに残ったのは、血小板に関わる点数でした。
脳の病気の手掛かりを探していたはずが、出てきたのは血液の成分だったのです。
1848通りのうち、血小板に関わるものはたった24通りしかありません。
それなのに、最初のふるいを通った112通りのうち18通りが血小板関連でした。
全体ではごく少数派の点数が、ふるいの中では大きな一角を占めていたのです。
偶然なら、1つか2つ混じる程度のはずでした。
最後まで残った3つの点数は互いにそっくりで、実質的には1つの信号を別の角度から見たものでした。
いちばん多くの遺伝情報を使っている1つを代表に選び、その点数で1万3541人を高い順に5つのグループへ分け直すと、1つのグループだけが、ほかとまったく違う動き方をしていました。
上位20%にあたる2708人は、偽薬の側とアスピリンの側に、ほぼ半々に分かれていました。
そして偽薬の側では3.3%(46人)が認知症と診断され、アスピリンの側では1.0%(13人)となりました。
残りの4つのグループでは、こうした差はどこにも出ていません。
むしろ点数がいちばん低いグループでは、アスピリンを飲んだ側のほうが認知症がやや多く出ていました(統計的に意味のある差ではありません)。
アスピリンを飲んだ全員と、飲まなかった全員。
その2つの数字だけを見ているかぎり、5つのうち1つだけで起きていたことは、決して表に出てきません。
ASPREEが最初に出した「差なし」も、全員を足し合わせた数字でした。
上位20%で認知症になった人の割合を時間で追うと、2つの線はしばらく並んで進み、2〜3年目から離れ始めます。
ただし、これが薬の効き始めた時期だとは限りません。
ASPREEの認知機能の検査は1年目のあと2年おきに行われていたので、差が見えるようになった時期が検査の間隔に引きずられた可能性もあります。
そしてもう一つ、同じ2708人の中で起きていたことがあります。
重い出血です。
脳の出血や、入院や輸血などが必要になるほどの出血が、偽薬の側では2.1%、アスピリンの側では4.4%に起きていました。
減った認知症と、増えた出血は、同じ大きさでした。
どちらも100人あたり2人あまりです。
著者らの見積もりでは、44人が5年近くアスピリンを飲めば、認知症が1件減り、重い出血が1件増える計算になります。
なお、この2708人の中で、亡くなった人の数には差がありませんでした。
効く人を見つけることと、勧められることは、別の話でした。
では、なぜ血を止める血小板の点数が、脳の病気への薬の効き方を分けていたのでしょうか。






















