「なりやすさの遺伝子」は、効く人を見分けられなかった

なぜ、認知症のなりやすさを示す点数ではなく、血小板の点数だったのでしょうか。
研究チームは比較のために、認知症のなりやすさで最もよく知られた遺伝子(APOE)と、認知症・アルツハイマー病・パーキンソン病に関係する点数も、まったく同じふるいにかけています。
どれ一つとして、アスピリンの効き方とは結びつきませんでした。
APOEが認知症のなりやすさと強く結びつくことは、今回のデータでも変わっていません。
それでも、アスピリンが効くかどうかを分けてはいなかったのです。
「認知症になりやすい人」を見分ける遺伝情報と、「この薬が効く人」を見分ける遺伝情報は、同じではないのかもしれません。
では血小板のほうは、何をしているのでしょうか。
アスピリンが抑えているのは、血小板が集まって固まる働きです。
血の塊を防ぐ作用と、出血しやすくなる作用は、同じ一つの働きの裏表にあたります。
血小板は血を止めるだけでなく、炎症や血管の老化にも関わり、脳の細い血管の傷みとの関連も報告されてきました。
ただし今回の研究は、参加者の血小板そのものを一度も測っていません。
調べたのは遺伝子の点数だけで、点数の高い人の血液で実際に何が起きていたのかは、まだ誰も見ていないのです。
この結果は、1848通りを総当たりで調べて、いちばん強く光った信号を拾い上げたものです。
効果の大きさは、本来より大きく見えている可能性があります。
別の集団での再現も、まだありません。
それでも、アスピリンで認知症が減る遺伝的な集団を見つけたと報告した研究は、これが初めてです。
フランスケ氏は「特に重篤な出血のリスクが高まることを考えると、この結果をもとに、医師に相談せずに認知症予防のためにアスピリンを飲み始めるべきではありません」と念を押しています。
上位20%という線は、効く人と効かない人の境界ではありません。
今回の解析で引いた目盛りの一つです。
また、これは心臓や血管のためにすでにアスピリンを処方されている人に、やめるよう勧める話でもありません。
研究チームが次にやるべきだとしているのは、点数の高い人の血小板を実際に測り、脳の血管に何が起きているのかを確かめることです。
そのうえで、同じ遺伝的特徴を持つ人だけを集めた試験で、認知症を防ぐ利益が出血の害を上回るかを見ます。
「もしこの結果が確かなものなら、アスピリンがすでに安く、どこでも手に入るという事実は、個別化された認知症予防を現実的なものにするかもしれません」とフランスケ氏は述べています。
すでに棚にある古い薬について「誰に使うか」を問い直すことも、新しい薬を見つけるのと同じだけの前進になりえます。
アスピリンの可能性を引き出す鍵は、薬そのものではなく、飲む人の側にあるのかもしれません。






















