・菌類は地球の生態学的均衡を保つ重要な役割を担っている
・菌類の菌糸は大気中の二酸化炭素を吸収して地中に蓄える働きを持つため、これにより大気中の二酸化炭素の量が調整される
・石油燃料の過剰使用により大気中の二酸化炭素量が増え大気中・地中の温度が上昇することで菌類による分解が速く進み、地中に蓄えられていた二酸化炭素が大気中に放出され、さらに気温が上昇する
蒸し暑い夏が過ぎ去り、秋の味覚キノコの季節がやって来ました。
キノコ、つまり菌類はもっともタフな生き物の一つで、それは地球上に限ったことではありません。地球の周囲を回る宇宙船の外や、チェルノブイリの原子炉の跡、南極の岩の中でも、菌が成長することが確認されています。とりわけ森林の土の中は、菌類たち独自の楽園です。
そしてこの菌類が、気候にとって重要な役割を担っていることを知っていますか?
『ケープコッド菌学会』の設立者ウェスレー・プライス氏は、近所の森でのキノコ採集が日課で、食用キノコを採っては楽しんでいます。しかしキノコの中には毒のあるものもたくさんあり、食べられる種類はごくわずかです。
一方で、神経ガスからプラスチックまで、あらゆるものを食べることができる菌類が存在します。菌類や微生物は、動植物の死骸を分解し、植物の生存に必要な栄養成分に転換する「自然の再資源業者」なのです。「菌類や微生物が生態学的均衡を保ってくれています。菌類や微生物をたくさん含む健康的な土さえあれば、生命を支えるのに十分なのです」と、プライス氏は菌類の重要性を語っています。
菌類の細胞が持つごく細い糸状の構造(菌糸)は、温暖化の要因になる炭素を地中に蓄えるのに役立っています。健康な土1立方メートル中に絡まり合って存在する菌糸は、なんと総長およそ19万キロメートル。地球の気候の運命は、文字どおりこの菌類の「細い糸」に吊られ、揺れ動いている状態と言えそうです。
このように重要な役割を果たす菌類ですが、実は地球上に存在すると考えられている380万種類のうち、これまでに確認されているのはわずか12万種類ほど。種類が膨大である上に、研究者が不足しているため、多くの菌類の調査がまだ手付かずの状態です。
貴重な研究者の一人であるボストン大学のジェニファー・バトナーゲル氏は、菌類と気候変動の関係を調査しています。バトナーゲル氏によると、菌類は大気中の温室効果ガスの量に大きな影響を与えているようです。
ひとつまみの土には数千種類の菌類が含まれ、これらの多くが温室効果ガスの排出を助けています。地中には、菌類によって大気中の2倍の炭素が含まれています。つまり、地中の菌類が多ければ多いほど、大気中の炭素は少なくなるのです。菌類はまさに「気候変動に立ち向かう地中の戦士」であり、「強力な酵素を作り出すミニ化学工場」なのです。しかし、「近年の環境破壊がこの菌類の働きに大きな混乱を招いている」とバトナーゲル氏は警鐘を鳴らしています。
また、同大学のパメラ・テンプラー教授は、複雑に見える菌類と気候の関係を簡潔に説明するため、植物、菌類、土、空気の相互作用である「炭素循環」を図式化しようとしています。テンプラー教授は、植物の約85パーセントの炭素循環に重要な役割を持つと考えられている菌根菌に特に注目しており、「もし地球にエイリアンが突然やって来て、菌根菌を消滅させて立ち去ったとしたら、植物の様相は大きく変わるでしょう」と語っています。
今日、私たち人間は、石油燃料を燃やして発生した窒素で空気を汚し、森林を減らし、菌根菌が炭素を蓄える機能を混乱させています。放出された二酸化炭素は、大気中と地中の温度を上昇させます。すると、動植物の死骸の腐敗が速く進み、地中に蓄えられていた二酸化炭素も大気中に放出されるようになります。これにより、森林破壊や気温の上昇などの気候変動が生じます。
実際に、地中の二酸化炭素量が急速に減少していることが明らかになっています。テンプラー教授が米国ニューイングランド地方全体で行った調査では、地中の二酸化炭素量が20パーセント減少しており、このことが温暖化を急速に進めている可能性が明らかになりました。
プライス氏は「僕たちはとても繊細にバランスを取っている惑星に生きています。僕たちは想像しているよりも、ずっと脆い存在なのです」と語っています。
目に見えない地面の下で密かに活躍している、「目立たない」菌類たち。私たちも地球の一員として、この均衡を保つ努力が必要です。
via: wbur / translated & text by まりえってぃ