・植物の中には、根粒を作って窒素固定細菌と共生し、肥料無しで育つものがある
・根粒種と近縁種のゲノムを解析したところ、共生関係が失われた痕跡がいくつも見つかった
・窒素固定細菌との共生にも、進化的に不利になるデメリットが有る可能性
他の生き物同様、植物にはアミノ酸や他の有機物の材料として窒素が必要です。空気中には豊富に窒素が存在していますが、形態が非常に安定しているため利用できません。植物が利用できるようにするためには、まず窒素を「固定」して、アンモニアに変える必要があるのです。植物はアンモニアであれば酵素を使って必要な形で取り込めます。植物には窒素を固定する能力はありませんが、細菌にはあります。
http://science.sciencemag.org/content/early/2018/05/23/science.aat1743
ある種の豆や植物は適切な細菌と共生関係にあります。これらの植物は、根に根粒という特殊な構造を作って、根粒菌と呼ばれる細菌をそこに住まわせ栄養を与えます。根粒に住み着いた根粒菌は、空気中の窒素を固定してアンモニアにし、宿主の植物に供給します。植物の中の10の科に、この能力を持つものがあります。しかし、これらの科に属する多くの属がこの能力を失っているのです。一体なぜでしょうか。
国際的な遺伝学者による研究共同体によって、共生関係にあるもの・ないもの、根粒を作るもの・作らないもの、農作物に関係するもの・しないものを含む37の植物のゲノムの配列特定と比較が行われました。
研究者たちが検証したのは以下の3つの仮説。
(1) ある1つの共通の先祖に素因となるイベントが起き、それが進化してすべての共生する子孫に伝わった。
(2) 共生は独立して複数回に渡って進化した。
(3) 共生は独立して複数回に渡って失われた。
1については、すべての共生植物に基準を満たす共通の遺伝子は見つかりませんでした。つまり、素因イベントが起きたとしても1つの新しいものというよりは、現存する遺伝子の援用によるものだと考えられます。
2についても調べましたが、複数回進化できた特徴はありませんでした。次に3について調べるため、「根粒種とその近縁種以外には見つかるが、近縁種でありながら共生しない種には見つからない遺伝子」を探しました。それが意味するのは、共通の始祖がそれを持っていたのに、非根粒種はそれを失ったということです。
すると、NINと呼ばれる遺伝子がこの条件に当てはまりました。非根粒種は同系の根粒種と同様にNIN遺伝子を取り囲む同じ遺伝子は持っていましたが、NIN遺伝子には8つの異なる欠損が起こり、遺伝子は失われていたのです。同様の傾向が、共生細菌を住まわせるのに必要な他の遺伝子でも確認されました。
「使わなければ失われる」過程は、他のことと同様遺伝子にも見られるようです。植物がこの地球に住む限り、使える窒素は限られているので、共生は好ましいことでなければなりません。しかし、それは少なくとも8回は捨てられているのです。おそらくそれは、多くの植物にとってコストがかかりすぎることだったのかもしれません。あるいは、窒素固定をしない細菌が、この仕組を悪用するようなことがあったのかもしれません。
作物を改良して窒素固定細菌と共生できるようにする試みがあります。化学肥料を作る際に使う化石燃料の削減にもなりますし、化学肥料の流出による水質の悪化も防げます。とはいえ、進化が示す共生のリスクの可能性にも留意する必要があるかもしれません。
https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/9486
via: ars Technica/ translated & text by SENPAI
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