■従来の理論で説明されるブラックホールには、重力が無限になる「特異点」が存在する
■「ループ量子重力理論」と呼ばれる時空を量子化する理論をブラックホールに当てはめると、「特異点」は存在しなくなる
■代わりに、時空が将来の「ホワイトホール」にまで拡大し、未来において物質がそこから放出されることになる
ブラックホールは現在でも、十分想像を超えて奇妙な存在です。しかし今度は、時を越えてくる…?
今回発表された2つの論文が真実なら、私たちはブラックホールの仕組を全く理解していないということになります。これまで提唱されている「ブラックホールの中心にある重力が無限になる特異点」という考えに、彼らの理論は真っ向から反対しているのです。代わりに彼らは、ブラックホールに吸い込まれた物質は、宇宙をまたいだどこかに、未来において放出される可能性があると主張しています。論文は、「Physical Review Letters」と「Physical Review D」に掲載されました。
https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.121.241301
Quantum extension of the Kruskal spacetime
https://journals.aps.org/prd/abstract/10.1103/PhysRevD.98.126003
ブラックホールには特異点が存在しない?
この論文を発表したのは、ペンシルバニア州立大学によるチームと、ルイジアナ州立大学の研究者によって書かれています。彼らが行ったのは、「ループ量子重力理論」をブラックホールに適用すること。するとその結果、ブラックホールの中心には「特異点」が存在しないことが示されたのです。
ループ量子重力理論では、時空の織物を「スピンネットワーク」の格子であると説明し、それが時間とともに進化するとされます。つまり時空は、量子化され、それ以上分けることのできない時空の最小ユニットがあるものとして定義されているのです。
計算によると、ブラックホール中央の急激なカーブによって、時空は「ホワイトホール」のような将来の構造物にまでその領域を拡大します。ホワイトホールとは、ブラックホールが反転したようなもので、すべての物質を引き込むのではなく吐き出すような構造物です。
また別の視点では、ブラックホールの中心部の時間は非常に遅くなっているために、ブラックホールに落ちた物質は実際には消えるのではなく、ずっとあとになって宇宙のどこかへとはじき出される――という風にも考えられます。したがって、もし未来へ行ってブラックホールを見ることがあれば、そこからは物質が放出されているでしょう。
もちろん、この理論は簡単にはテストすることはできません。そのため観測によってこのシナリオを証明することは難しいでしょう。
しかし、ノートルダム大学の物理学教授ドン・リンカーン氏は、「もしかすると『高速電波バースト』の観測を、ブラックホールがホワイトホールへと転じている印として説明できるかもしれません。また、地球大気中で発見される高エネルギーの宇宙線もその可能性があります」と述べています。
無限の重力という特異点の概念を用いずにブラックホールを説明できるこの理論。しかし、量子化された時空という考え方もなかなか理解が難しい…。しかしこの理論が正しいとすれば、未来の宇宙はホワイトホールであふれていることになりそうです。また、ブラックホールがどのようにホワイトホールに反転するのかも気になるところです。
referenced: Big Think / written by SENPAI / edited by Nazoloy staff