知の統合が暴き出した「文化・人体・言語の因果関係」
この研究は、言語学者チャールズ・ホケットが1985年に行った調査に刺激を受けて始まりました。ホケットは、唇歯音をよく用いる言語が、柔らかい食べ物を食べる社会でよく見られることを発見しました。食事と発音の相互関係の裏にあるメカニズムを解明すべく、研究チームは、自然人類学・音声学・歴史言語学などの領域から集めた研究結果・データ・手法を組み合わせることに。まさに、分野の垣根を越えた知の統合でした。
プロジェクトを率いたチューリッヒ大学教授のバルタザール・ビッケル氏は、「私たちが導き出した結果は、文化的慣行・人体の仕組み・言語を結ぶ複雑な因果関係の解明に役立つでしょう」と語っています。同時にこの発見は、「言語は昔も同じように話されていたはずだ」という一般的な考え方に一石を投じることにもなるでしょう。
数千年前の人々は、一体どんな言葉を話していたのでしょう。今回の研究で用いられた新しい手法を用いれば、カエサルがローマの腹心に戦いの勝利を知らせた”Veni, vidi, vici”「来た、見た、勝った」という言葉が、実際には”weni, widi, wici”と発音されたかもしれないことが、明らかになりそうです。
この先、もし私たちがさらに多くの柔らかい食べ物を摂るようになったら、数千年後の人間の歯の構造や話し言葉も様変わりしているかもしれませんね。