
Point
■新生代のアボカドは、大型動物に食べられることで種を散布する「動物被食散布」を行っていた
■約1万3,000年前に多くの大型動物が消滅して以降も、アボカドはこの時代錯誤の手段を保ちつづけた
■進化しそこねたアボカドが現存しているのは、人類が種を小さく、果肉を大きく改良した結果か
「あ、今日は安くなってる!」と、スーパーで手に取ったアボカド。あなたが手にしたのは、とんでもない「オバケ」かもしれない。
アボカドは、新生代に進化上の最盛期を迎えた果物だ。マンモス・ウマ・ゴンフォセレ・メガテリウムなどの大型動物が、北米の大地を闊歩していた頃の話である。

これらの動物にとって、アボカドは大好物の食糧だった。種ごと丸呑みにしては、長距離移動中に排便することで新しい土地に種を残した。これは、動物被食散布と呼ばれる生存戦略の1つだ。種をばらまくことで、生き残り、成長する—。それこそが、果実をつけるすべての植物が目指すゴールである。
ところが、約1万3,000年前、大型動物は西半球から姿を消した。氷河期に存在した多種多様な大型動物の68%が北米から消え、80%が南米から消えた。
大型動物の数が激減してからも、アボカドは種の分散方法を頑なに変えなかった。時代錯誤の手段を保ちつづけたのである。
科学ジャーナリストのコニー・バーロウ氏が、自著「The Ghosts of Evolution: Nonsensical Fruit, Missing Partners, And Other Ecological Anachronisms」の中で記している。
大型動物との蜜月 遺伝子に染み付いた甘い記憶はなかなか消えない
バーロウ氏が説明するには、大型動物がいなくなったことに、アボカドは皆目気づかなかったようだ。大型動物の存在なしには、親である木に光や栄養の獲得を遮られた種は、落ちた場所で腐るしかない。
ベリーなどの小さな種を持つ果物は、小さな動物でも食べて種を散布することが可能なので、新しい場所で芽を出すチャンスは高い。だが、大きな種を持つアボカドは、そういうわけにいかない。

野生のアボカドはあくまでも、それを一口で丸呑みでき、かつその果肉をおやつにするのが大好きな大型動物のための食糧だった。たかだか1万3,000年ほどで、最愛のパートナーである大型動物と築いた蜜月関係の鮮明な記憶が、アボカドの遺伝子から消えることはなかったのである。