死後に意識は完全なものとなる
では次は、脳がなくなった後の意識について考えてみよう。
バケツが壊れたら中の水はこぼれ出し、元の海に戻ることが予想される。つまり個人の意識というのは死後も幽霊のように単独で存在できるのではなく、宇宙の意識に戻る、あるいは吸収されるということなのだ。
『エヴァンゲリオン』の某計画かな? という感じである。
また博士は「脳が意識の一部をフィルタリングするからといって、その一部が生きている間ずっと自分だけのものにはならない」と指摘する。
これは目と光の関係を考えてみればすぐに理解できる。自分の目が光の一部を通すからといって、他人が同じ光を通すことができないわけではない。こうした錯覚が生み出すのは、自己と他者が絶対的に分離されているという考えだ。
博士によると、自分と他人の意識は生前も死後も水面下ではつながっているという。
しかし皮肉なことに、完全に区別のない「私たちの意識」となるのは死んだ後でしかないのだ。生きている間は脳がフィルタリングすることで、意識は自分だけのものと錯覚してしまう。
死の中でこそ、「自己/他者」という分離の幻想が壊れて、誰しもが統一された意識の内に安寧を感じるのである。なんだかよくできたSF小説のようだ。
ところで最初の問いに戻ってみると、答えはイエスでもありノーでもある。なぜなら博士の理論としては意識は脳なしでも存在できるが、それを科学的に証明する手立てはまったくないからだ。
結局答えは、いっぺん死んでみないと分からないのかもしれない。