マズローのピーク体験と原体験
研究者たちはこのアイデアについて検証するため、人々が経験した最も極端な出来事についてのレポートを集め、その経験が人生に与えた意義について調査しました。
その結果、彼らの予想通り、それが喜ばしいものであれ痛みを伴うものであれ、「極端な経験」が、人々にとって最も意味のある経験であったことが分かったのです。
この結果を踏まえれば、人間は自分の人生に大きな意味を与えるために、積極的に不快な感情を経験しようとしていることも考えられます。
では極端な経験とは一体何なのでしょうか。
2013年に発表された研究では、ホラー映画を観ること、悲しい音楽を聴くこと、辛い食べ物を食べること、ジェットコースターに乗ることなどが、人々の喜びを大きく増加させることを示しています。
また、50年以上前にアブラハム・マズローは「ピーク体験(peak experiences)」の重要性について説いています。彼がエキサイティングで至高な体験であると語るその体験は、逆境の克服がトリガーとなり得ることが指摘されています。
つまり極端な経験とは、ポジティブ・ネガティブにかかわらず、「心の底からわき起こる強い感情を伴う経験」といえるでしょう。
大きな仕事を成し遂げる時、よく「原体験が必要だ」といわれます。そのきっかけは喜びだけでなく、怒りや悲しみであることもしばしば。しかしそれらは、作ろうとして作れるものではありません。大切なのは、新しい経験を怖がらず、その際に起きた自分の中の強い感情を封印せずに認識することなのです。今回の「極端な経験」も、そのような心構えが必要だと考えられます。
ピーク体験のような極端な経験は、「私たちが何者であるのか」といったことの理解を深めるために役に立つものでもあります。最期の時に人生を振り返る折、ポジティブであれネガティブであれ、いかに自分が生涯で感情を動かされたかによって、人が本当の意味で「生きた」かどうかが決まるのかもしれません。