美しい日本庭園は「見るだけ」で心が整う
今回の実験は、京都にある日本屈指の観賞式庭園「無鄰菴(むりんあん)」と、京都大学構内に作られた簡素な日本庭園を比較対象として行われました。
参加したのは、京都の大学に通う16人の学生たち。
被験者は両方の庭園を7分間ずつじっくり鑑賞し、その間、視線の動き(アイトラッキング)、心拍数、気分の変化(POMS2という心理テスト)を記録されました。

結果は明白でした。
名園・無鄰菴を見たとき、被験者の心拍数は下がり、気分スコアは大きく改善。逆に、整備が行き届いていない学内の日本庭園では、心拍数はやや上昇し、気分の改善も限定的でした。
では、何がこの違いを生んだのでしょう?
研究者たちが注目したのが「視線の動き」です。
無鄰菴では、視線が左右に活発に、そして広範囲に動いていました。
それに対して学内の日本庭園では、視線は中央に集中しがちで、あまり動きません。

つまり、特定の美しい要素を見ることよりも、視線が自然に空間全体を流れることが、心を癒す鍵になっていると考えられるのです。
この水平な視線移動は、PTSDなどの治療で知られるEMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)と似ているという指摘もあります。
これは左右の眼球運動が神経系に働きかけて、ストレスの再処理や緩和を促す手法です。
無意識のうちに日本庭園がその“自然療法”を誘発していたとしたら、驚きでしょう。