数学の能力と自信の関係
人が何かを決断する場合、数学的な合理性の他に、自身の考えに自信が持てるかどうかが非常に重要となってきます。
数学の成績は良いスコアを出すにも関わらず、自分の数学的能力に自信が持てない人の場合、結局は決断に数学的な合理性が反映されない場合があるためです。
研究ではこのことを示すために、「数学スコアが良く、自分の数学能力に自信がある人」、「数学スコアは良いが、自分の数学能力に自信のない人」、「数学スコアは悪いが、自身の数学能力には自信がある人」、を調査しました。
自分の数学能力の評価について、例えば「あなたは分数の計算は得意ですか?」というような質問項目を備えた、アンケートによって調査を行っています。
1つ目の調査では、数学的な能力や自信の有無とその人の経済状況の関係性を調べています。
この経済状況というのは、投資などの運用状況、クレジットカードの利用状況、ローンの有無などから総合的に評価して、良いか悪いかを判断しています。
その結果、「数学スコアが良く、自分の数学能力に自信がある人」で経済状況の良い人は82%でした。そして、「数学スコアは良いが、自分の数学能力に自信のない人」は経済状況の良い人が78%となったのです。
この4%の差はごく僅かなものに見えます。しかし、実は年収5万ドル(約540万円)の人と、年収14万4千ドル(約1500万円)の人の差は4%なのです。これは、この調査による経済状況の差と非常に近似しています。
2つ目の調査は、全身性エリテマトーデス(SLE)という難病の患者に対して行われました。この病気は薬物治療により症状をある程度抑えることが可能ですが、必要とされる薬の種類が多く、用法・用量の管理が難しい外用薬を用いたり、保険適用された薬とそうでないものが含まれるなど、症状をコントロールするのがとても難しい面を持っています。
この患者に対して、調査を行ったところ「数学スコアが良く、自分の数学能力に自信がある人」は症状が悪化して追加治療が必要になったパターンが7%でしたが、「数学スコアは悪いが、自身の数学能力には自信がある人」では症状の悪化が44%にものぼりました。
これは単に数学能力に自信を持てば良いということでなく、実際の数学能力と数学能力への自信が一致していないと、より不利な決断を下しやすいことを示しています。
数学的な能力が無いにも関わらず、自分の判断に自信を持つ人は、適切なアドバイスを受け入れることができず、結果的に誤った判断を繰り返す状況になるのです。