なぜか「左利きの女性」に多い
研究チームは、この女性と同じ例を探すため、「ヒューマン・コネクトーム・プロジェクト」というデータベースを調査しました。ここには、被験者の嗅覚情報とともに、脳内のMRI画像が1100件以上も保存されています。
その結果、606名いた女性の内、嗅球を持っていない人が3人見つかったのです。内1人は先天性嗅覚障害のため、匂いを識別できないのですが、後の2人は、先の女性のように優れた嗅覚を持っていました。
しかも、その内1人は左利きだったのです。
研究チームは、この2人の女性に協力してもらい、どのように匂いを認識しているかを調査しました。比較対象として、同年代の女性140人(嗅球もあり、嗅覚も正常)にも同様の嗅覚テストを行なっています。
その結果、2人の女性の嗅覚は、嗅球を持つ女性たちと同じ水準に達していることが明らかになりました。一方で、2人の嗅覚能力の類似度は、他の140名に比べて非常に近いことも分かっています。
ただこうした現象の多くが、なぜ左利きの女性に見られるのか、また、嗅球がないのになぜ匂いが認識できるのかはいまだに不明です。
ソベル氏は、仮説として2通りの予測を立てています。
「1つは、嗅球を補う能力を脳が幼少期に発達させたということ。これは、脳が従来考えられているより柔軟であることを示します。もう1つは、かなり大胆ですが、嗅球が匂いの識別にそもそも無関係であるということ。もしかしたら嗅球は、匂いの識別とは別に役割があるのかもしれません」
左利きの女性の脳には、何か特殊な発達が起こっているのかもしれません。