- 匂いの識別は、鼻で集められた情報を大脳の先端にある「嗅球」がキャッチすることで初めて成立する
- イスラエルの研究チームにより、嗅球がないのに優れた嗅覚能力を持つ女性が複数見つかる(その多くが左利き)
目で見、耳で聞き、肌で感じる。
こうした知覚はすべて脳なしでは成り立ちません。目や耳は情報を集めるための入り口であって、実際に景色や音を認識するのは脳の仕事です。
これは「匂い」に関しても同じこと。
鼻で集めた情報を、大脳の先端に位置する「嗅球(olfactory bulb)」がキャッチして初めて「匂い」が意識できるのです。しかし、この科学の絶対常識が覆される事態が今まさに起きています。
イスラエル・ワイツマン科学研究所により、嗅球が存在しないのに優れた嗅覚能力を持つ29歳の女性が発見されたのです。
さらに同じような女性が他に複数人見つかっており、不思議なことにその多くが左利きだといいます。
研究の詳細は、11月6日付けで「 journal Neuron」に掲載されました。
https://www.cell.com/neuron/fulltext/S0896-6273(19)30854-2
「嗅球」がないのに優れた嗅覚を持っていた
この事例が発見されたのは、あまりに偶然のことでした。
研究チームが、健常な被験者を複数募り、脳内をMRIで撮影していました。すると、その中の1人の女性(29)に「嗅球」がないことが判明したのです。
ノーム・ソベル研究主任は、「これは実に驚くべき事件だ」と話します。というのも、MRIの前に実施した知覚テストで、彼女は平均より優れた嗅覚機能を持っていると証明されていたからです。
ソベル氏は、匂いの知覚についてこう説明します。
「従来の知見からすると、匂いの情報は嗅球の表面にマップ付けされます。そして脳がマップを読み取ることで、匂いの認識となります。つまり、嗅球がなければ、匂いを意識することは不可能なのです。」