甲殻類の成長モラトリアム?
モラトリアムは、心理学では社会に出て一人前になることを猶予されている期間のことを指します。人間は自分探しで、大人になることを心理的に延期する場合があります。
けれどウミクワガタのメスは「まだ大人になるには早すぎる」と判断した場合、実際に身体の成長自体を止めて大人になることを延期することができるのです。
どんなときに起きるかと言うと、それは成体のオスと上手く出会えなかった場合です。
この生物を単独で飼育した場合、オスは一週間くらいで成体に変態するのに対して、メスは1カ月ほど経っても幼生から変態を起こしません。場合によっては変態せずに、幼生のまま死んでしまう個体もいます。
ところが、メスとオスを一緒に飼育すると、最短で8日ほどでメスは成体へ変態します。なんとウミクワガタのメスは、オスに出会わないと子供でいる期間を延長して、大人にならないという選択ができるのです。
ヘラムシやヨコエビなどの甲殻類でも「メスの変態延期」という現象は報告されています。しかし、通常それは3日程度でウミクワガタのように2週間以上も変態を延期できるというのは珍しい例です。
これは、ウミクワガタはメスが持つ、厳しい生殖の条件に理由があると考えられます。
ウミクワガタのメスは脱皮直後の外骨格が柔らかい短期間しか交尾することができません。また、成体になるとあまり泳ぎ回ることをしないため、オスのいない状況で大人になることは、繁殖できずに死ぬリスクを高めるのです。
こうして、ウミクワガタのメスは、オスに出会わなければ成長しないという特性を得たのです。
婚活に悩む人の多い現代社会の男女にとっては羨ましい特性に思えますが、逆に言うと、恋愛したらとっとと歳をとってしまうということになるのでしょうか。
恋愛せずに若いままでいるか、恋愛して早く歳をとってしまうか…。そんな身体になったら、それはそれで悩ましいですね。