- ニューヨーク州で複数のシダ植物の根と思われる、世界最古の森林の化石が発見された
- 年代は3億8500万年前と考えられ、地球大気を変革させた転換点となる最古の樹木となる
- この森は最終的に、洪水によって流され失われたと考えられる
ニューヨーク州カイロの放棄された採石場で、世界最古と考えられる森林の化石が発見されました。
見つかったのは非常に複雑な模様を作る、複数のシダ植物による根系の化石で、3億8500万年前のものと考えられています。
この年代はデボン紀から石炭紀に差し掛かる時期で、まだ脊椎動物は地上へ進出していなかった時代と考えられます。現代とは異なる巨大なシダ植物の樹木が地上で繁茂し、地球の大気に大きな変革を起こしていました。
これは地球の地上に豊富な酸素をもたらした最古の森の重要な手がかりになると考えられます。
この発見に関する論文は、米国ビンガムトン大学、ニューヨーク州立博物館、英国カーディフ大学の研究者チームにより発表され、生物学全般に関する学術雑誌『Current Biology』に掲載されています。
https://doi.org/10.1016/j.cub.2019.11.067
世界最古の森
今回の森の化石が発見されたのは、ニューヨーク州カイロの廃棄された採石場です。
ニューヨークと言われるとマンハッタンの華やかな大都会を思い浮かべますが、カイロは東京都でいう奥多摩といったところでしょう。
この周辺では以前から古い森の化石が見つかっており、40キロメートルほど離れたギルボアでも、3億8200万年前の化石の林が見つかっています。しかし、今回の発見はそれよりさらに数百万年古いものです。
発見された植物は、10メートルほどの高さまで成長するセロリのような木「Cladoxylopsids」と、古代の松のような木「Archaeopteris」。
この頃の植物は、シダ植物という胞子によって増える植物で、地球が温暖だった影響もあり非常に巨大な樹木に成長していたと考えられます。
Archaeopterisは、現代の裸子植物(松やソテツなど針葉樹)の始祖となる特徴を備えていたといわれています。
発見された化石は、これらの木の根系の部分ですが、古代植物の根の痕跡は非常に重要な情報を持っています。
3億8500万年前は、現代に比べて非常にCO2(二酸化炭素)濃度が高く、生物の多くは本格的に地上へ進出する以前の状態でした。こうした高濃度のCO2は、植物に吸収され根を通して地下水へと溶け出して、最終的に石灰石などを作り出しました。こうした作用を「風化」と呼びます。
これによって地上のCO2濃度は現代に近いレベルまで低下し、酸素濃度は大気中の35%近くを占めほど上昇したのです。
こうした大気組成の変化は、古代の森で昆虫が巨大化していた原因とも関連しています。
そのため植物の根の進化を知ることは、地球大気の転換点を理解することにつながるのです。
以前ギルボアで見つかった木は、風化作用を起こすには根が貧弱な古代の種でした。今回の発見はもっと古い時代に、現代へとつながるような複雑な根を持った木が存在したことを示しています。
これは、地球生命の歴史を開いた森林がかつてこの地に存在していた証拠でもあるのです。
この場所の地表からは、他に魚の化石も見つかっており、この巨大森林は最終的に大洪水によって押し流されて消えたのだと考えられています。
胞子で増える巨大植物と巨大な昆虫の森とは、まるでナウシカのような世界です。化石からそれをイメージすることは難しいですが、研究者たちはそんな景色が見えているのかもしれません。
発見について、英国カーディフ大学の古植物学者クリストファー・ベリー氏はこう語っています。
「この採石場を歩くとき、私達は古代の木々の根の中を歩いています。ここに立つと、想像力で当時の生きた森が再現できるんです」