- 量子認知は量子力学と心理学の関連性を探る研究分野
- 「囚人のジレンマ」など心理実験の結果には、意思決定にゆらぎが見られるが、これは量子確率論の計算と一致する
- 新たな研究は、こうした心理課題と脳内スキャンによって、量子的作用に関連する可能性の高い脳領域を特定した
AIが進化して「人間に近づいている」と言われていますが、本当にAIは人間のように考えているのでしょうか?
合理性を重視した機械の判断と、人間の判断は、どう考えても食い違っていると感じる人は多いでしょう。
人間は常に合理的で妥当な選択を行いません。なぜか、理屈に合わない行動をとってしまう場合があるのです。
それは何故でしょう? ほとんどの人は、これを「人間の持つ意識(意思)が原因じゃないか」と考えるのではないでしょうか。
では、人間の持つ意思とはなんなのでしょうか?
こんなことを考え出すと、哲学的な迷路にはまり込んでしまいそうですが、実はこうした人間の思考のゆらぎは、量子力学の確率論による計算と一致するのだと言います。
人間の意識は、脳内で起きる何らかの量子的効果によって生じている可能性があるのです。
新しい研究では、有名な心理実験とともに脳内スキャンを実行して、人間の意思決定のゆらぎに作用する量子的な作用が脳のどの領域で起きているかを明らかにしようとしています。
この研究論文は、中国科学技術大学の神経科学者Ji-An Li氏を筆頭とした研究チームより発表され、1月20日付けで人間行動学に関する科学雑誌『Nature Human Behaviour』に掲載されています。
https://www.nature.com/articles/s41562-019-0804-2
意思決定と量子確率論
有名な心理学の実験に「囚人のジレンマ」というものがあります。
これはゲーム理論(利益他のために最適な行動を決めるための理論)の代表的なモデルでもあり、人間の意思決定の方法を探る実験に使われます。内容は次のとおりです。
共同で犯罪を行った2人の容疑者が、別々の部屋に収監されて尋問を受けています。
もし2人とも黙秘した場合、容疑者は証拠不十分で釈放されます。もし2人とも自白した場合は懲役5年の服役になります。
しかし、もし片方が自白して片方が黙秘した場合、自白した方は懲役2年、黙秘した方は懲役10年の刑を受けることになります。
さて、このとき囚人はどのような選択を行うでしょうか?
古典的な心理学理論に基づいた場合、人々は「利益」を最大化し、「損失」を最小化するためにもっとも最適な行動を選択するとされています。
囚人のジレンマの場合、2人が黙秘するのが最大の利益となりますが、これには片方が自白した場合大きな損失を受けるというリスクを伴います。
こうなるともっとも最適の選択は、自白することです。釈放という最大利益は失いますが、最大の損失は回避できます。
しかし、人は必ずしも、このもっとも合理的な判断を選択しません。実際囚人がどういう選択をするか予測することは、かなり困難な問題になります。
ところが、囚人の選択結果を予測できる理論があるのです。それが不確定性を考慮した量子力学です。
囚人の選択が予測不可能になる原因は、相方がどのような判断を行うかが未知であり、確定されていないため起こります。
このとき相方の選択は、可能性がある選択の重ね合わせ状態になります。それはシュレーディンガーの猫が生きている状態と死んでいる状態が重なり合っていると表現されるのと、同じ曖昧な状態を表します。
そして、このとき量子力学は人の最終判断が、その人の信念と相互作用してもつれ合った状態であるということを示すのです。
人の信念と、最終的な選択が量子もつれを起こすことで、意思決定にどう影響するかを定式化させた研究なども、実際に存在しています。