量子モデルから予測される人間の意思決定
今回の研究は、こうした過去の研究から提示されている意思決定の量子モデルを元に、古典的な心理モデルと比較して人間の行動をもっともよく予測できるものを調査しました。
その結果、アイオワ・ギャンブル・タスク(IGT)と呼ばれる実験から非常に良い結果を得ました。
IGTはカードを引いて「当たり」を引いた場合お金をもらい、「はずれ」を引いた場合はお金が没収されるというゲームで、要はくじ引きです。
このゲームでは4組のカードデッキが用意されていて、プレイヤーはこの中から1つのデッキを選び、そこからカードを引きます。
「当たり」と「はずれ」の比率はデッキごとに異なっていて、「はずれ」を引きやすい悪いデッキは当たったときの報酬額が多めに設定されています。
過去の研究では、試行回数を重ねていくと、健康なプレイヤーは報酬額は少ないが「当たり」を引きやすいデッキを選択して、ゆっくりと着実にお金を稼ぎましたが、薬物中毒者や脳に損傷のあるプレイヤーは、報酬は多いが「はずれ」の多いデッキを引き続けて、低いパフォーマンスを示したと報告されています。
これは脳内の何らかの要因が、正常な意思決定を阻害してしまっている可能性を示しています。
今回の研究では、プレイヤーには健康な被験者60人と、ニコチン中毒者(喫煙者)40人で実験を行ったところ、過去の報告と同様の傾向が確認できました。
そして、健康なプレイヤーの意思決定は量子モデルによる予想と一致していたのに対して、喫煙者の意思決定は予測とは異なるものになっていました。
研究者たちは、同時に実験中の彼らの脳スキャンを実施。健康なプレイヤーの脳は意思決定に関与するとされる前頭葉内のいくつかの大きな領域が活性化していましたが、喫煙グループでは、そうした脳活動が確認されませんでした。
この量子モデルと一致する行動を見せた、健康なプレイヤーの脳の活性領域は、量子的な効果を発揮する脳器官を示している可能性があると考えられています。
アニメや小説で人気を博している『ソードアート・オンライン』では、人間の意識を生み出す脳内に、量子的な作用を行う器官「フラクトライト」が存在しているという設定が登場します。
こうした人間の意思決定に脳内の量子的な作用が関係しているという考えは、物理学者のロジャー・ペンローズが提唱し始まった研究ですが、今回の報告は、そんな脳内器官を特定するための第一歩として重要なものになるかもしれません。
今回の研究では、脳の活動領域を比較するために、非喫煙者と喫煙者が使われましたが、これが本当に量子的な脳神経の作用を反映したものとして妥当であるかは、さらなる研究が必要だと研究者は語っています。
単純な条件判断を繰り返すだけのAIが、どれだけ進化しても、そこから意識の存在を感じることが難しいのは、この量子的な作用を見落としているからかもしれません。
人間の意識の正体に、科学は近づきつつあるのでしょうか。