Point
■オーストラリアと中国の科学者が3次元量子状態の量子テレポーテーションに初めて成功した
■これまでの量子ビットは2次元の情報しか持つことができなかったが、この方法は原理的には任意の次元に拡張が可能だという
■この研究は、量子ビットの情報容量を拡張子、量子コンピュータや、量子インターネットの実用化に革新的な可能性をもたらしたと言える
SF世界の話の様にしか聞こえない、量子テレポーテーションという単語ですが、オーストラリアと中国の科学者による、国際研究チームが3次元量子テレポーテーションの実験に成功したそうです。
これまでの、量子テレポーテーションは、「0」と「1」の二次元情報しか扱えませんでした。しかし、理論上は多次元量子テレポーテーションは可能だろうと言われており、この度その実験について、初めて成功報告が出たのです。
この研究論文は、8月15日にアメリカ物理学会が発行するPhysical Review Lettersに掲載されています。
https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.123.070505
量子もつれってなに?
量子テレポーテーションが何かを理解するには、まず量子もつれについて知る必要があります。
量子もつれとは、例えば自転(スピン)の向きがわかっていないけれど、互いに反対方向に自転しているとわかるような状態のペアの粒子を指します。
これは距離などは関係なく、片方の粒子が右回転していることを観測すると、もう片方が即座に左回転に決定されるという不思議な性質を持っています。
これは「初めから状態は定まっているけれど、単に状態を観測していないからわからない」という意味ではありません。
例えば、赤いボールと青いボールを別々の箱に詰めて、どっちがどっちかわからないようにした上で、片方の箱を開けたら赤いボールが入っていたので、即座にもう片方の箱の中が青いボールだとわかる、という理解の仕方は間違いになります。
こういう例えは古典力学的な考えのもの。これでは量子もつれの何が不思議なのかわからなくなってしまうでしょう。
量子論的な考え方では、観測するまで状態は定まらないというところが重要になります。
この場合には、例えばLEDで赤か青に光るボールを考えてみてください。このボールはペアになっていて、片方を赤色に点灯させると、もう片方が即座に青く点灯するというギミックを持っています。
これを同じ様に2つの箱に詰めましょう。最初は無灯火の状態ですが、箱を開けるとランダムにどちらかの色にボールは点灯します。あなたが箱を開けるとボールが赤に点灯しました。このとき、もう一方の箱の中のボールは即座に青く点灯しています。
こんなギミックが付いていたら、当然ボールになんらかの通信機器が備わっているんだろう、と考えるのが自然です。しかし、調べてみてもこのボールには何の通信機器もついていませんでした。
そうなると「何このボール、気持ち悪い」と感じることでしょう。量子もつれはまさに、そのようなことが起こる現象です。そのため、アインシュタインは量子もつれについて、「薄気味悪い遠隔操作」と呼んだのです。