- 空気のない場所でも金属に電子を吐きだして呼吸している細菌が発見された
- 細菌は電子の放出効率を上げるために、電子のスピン方向を統一していた
- 仕組みを解明することで量子生物学と生体量子コンピューターの開発に役立つ
全ての生命は呼吸を行っており、私たち人間を含めた全ての多細胞生物は酸素呼吸を行っています。
しかし地球の地下深く、空気の存在しない場所では、なんと酸素の代わりに金属で呼吸する生物がいました。
今回、研究者によって調査されたS. oneidensis(シュワネラ・オネイデンシス)と呼ばれる細菌は代表的な金属呼吸を行う細菌として知られており、マンガンを初めとして鉄、鉛、水銀、ウランなどの固形鉱物を使って呼吸をしています。
なので、菌表面に接続された回路電極や金属を取り去ってしまうと、オネイデンシスは金属呼吸が行えなくなって窒息し、直ぐに死んでしまうのです。
そんな非常にユニークな呼吸を行うオネイデンシスが、その呼吸の詳細な仕組みまでは知られていませんでした。
ですが今回、イスラエルの研究者による研究の結果、オネイデンシスの呼吸は、電子のスピン方向の制御をともなった、量子レベルでの調節が行われていることが明らかになりました。
量子レベルで呼吸を制御している生物が発見されたのは、はじめてです。
今回の研究は近年、急速な勢いで発展している「量子生物学」とタンパク質ベースの「生体量子コンピューター」の発展に大きく貢献すると考えられます。
金属で呼吸するオネイデンシスは、量子レベルでの反応をどのように制御しているのでしょうか?
研究内容はイスラエル、ワイツマン科学研究所のスリャカント・ミシュラ氏らによってまとめられ、2019年11月8日に学術雑誌「Journal of the American Chemical Society」に報告されました。
https://pubs.acs.org/doi/10.1021/jacs.9b09262
電子スピンの制御が呼吸効率を上昇させる
全ての生命活動は、電子の流れを生じさせます。
そのため、呼吸の正体も電子の流れにあると言うことができます。
呼吸を電子中心に考えると「呼吸とは生命活動によって生じた余剰電子を外部に捨てる行為」だと再解釈できます。
つまり酸素呼吸を行う生き物は酸素に電子を捨てて、金属呼吸をするオネイデンシスは金属に電子を捨てているのです。
これまでオネイデンシスの電子放出は、細胞から伸びる「ピルス」と呼ばれるアース線のような長い突起によって行われていると考えられてきました。
しかし近年の高精度な電子顕微鏡の撮影により、この長い突起の正体が細胞膜の延長であり、根元部分にはシトクロムと呼ばれる鉄を含んだ電子伝達タンパク質が、はめ込まれていることが明らかになりました。
ミシュラ氏らの研究チームが注意深い測定を行った結果、電子が根元のシトクロム内部を移動すると、電子のスピン方向が一定の方向に偏ることがわかりました。
電子は回転していることが知られており、回転の方向によって上方向、下方向に分類されます。
またシトクロムにはキラリティーの存在が確認されており、オネイデンシスの吐きだす電子のスピンは、このシトクロムのキラリティーの働きで、細い導線部分に移動する直前に、上下どちらかに偏向されていたのです。
研究者たちの行った測定によれば、スピンの方向を揃えることで電子の移動効率が上がり、結果としてオネイデンシスの呼吸効率も上がったとのこと。
しかし、どうしてシトクロムのキラリティーが電子のスピン方向を制御できるのでしょうか?