問題はワイヤーの「太さ」
人工網膜には、平方センチメートルあたり約4億6000万個のナノセンサーが搭載されています。ヒトの網膜の場合、ナノセンサーに当たる光検出細胞の数は約1000万個ほどです。
そのためEC-EYEは、高い視力だけでなく、薄暗い中でモノを見ることもできると考えられています。さらに、理論的にはヒトの目よりもはるかに高い解像度で世界を見ることもできるでしょう。
しかし、そこには問題点もあります。
ナノセンサーには、光情報を脳に伝達する管として「ナノワイヤー」が繋がれます(先のEC-EYE図の右側を参照)。しかも、それぞれのセンサーから個別の読み取りが必要になるので、センサーの数に応じて1本ごとにワイヤーを繋がなければなりません。
ところが、現段階のプロトタイプでは、ワイヤの直径が1ミリに達し、これでは1本で多くのセンサーを塞いでしまうのです。
そこで研究チームは、20〜100マイクロメートルの極小センサーを作成しました。研究主任のZhiyong Fan氏は「マイクロワイヤーの取り付けは、まるで外科手術のような作業でした」と話します。
1マイクロメートルは、1ミリの1000分の1ですから、多くのワイヤー接続が可能になります。
しかし、センサーは「ナノ」のレベルですから、これでもまだ不完全です。1ナノメートルは、1マイクロメートルをさらに1000分の1にした大きさに相当します。
億単位のナノワイヤーを繋ぐとなれば、目には見えないレベルまで極限に細くしなければなりません。そこまで細くしてもワイヤーはまだ機能するのでしょうか。
Fan氏は「将来的には、EC-EYEを高性能な義眼やヒューマノイドロボットに応用したい」と話しますが、技術が理想に追いつくかどうかが焦点となりそうです。
研究の詳細は、5月20日付けで「Nature」に掲載されました。