肺は移植までに8割が使用不能になる
臓器移植の技術が進んだ現代にあっても、肺の移植は困難を極めていました。
肺は摘出直後から劣化がはじまり、直ぐに移植に耐えられないほどまで損傷してしまうからです。
そのため、肺の機能を少しでも維持しようと酸素と体液を供給する体外灌流システムが用いられてきました。
しかし不思議なことに、肺は他の臓器とは違って、酸素と体液を供給するだけでは維持ができず、僅か数時間で8割が使い物にならなくなるほどに劣化してしまいます。
肺の維持にはまだ知られていない生体だけが提供できる「ナゾの物質」が必要だったのです。
そこでコロンビア大学のホーザイン氏らは、摘出された幾つかのヒトの肺を生きた豚の首の血管と接続し、同時に人工呼吸器を使用して空気を送り込みました。
ヒトと豚でナゾ物質の存在が共通ならば、豚の血液を介してヒトの肺を維持できると考えたからです。
結果、肺を長時間、生きたまま保持することに成功しました。
豚に接続された肺は、最初は組織が死んだことを意味する多くの白い領域があり、酸素を取り込む能力が残っているとは思えませんでした。
しかし、豚と接続されることで細胞構造・酸素供給能力が大幅に改善し、理論的には移植可能とされるほど健康になりました。
また驚くべきことに、約2日間体外にあった肺ですら、豚との接続により回復がみられました。
これらの結果は、もはや酸素や栄養の供給だけでは説明がつきません。
酸素や栄養の供給だけでいいならば既存の体外灌流(EVLP)システムでも提供可能だからです。
やはり肺の維持・回復には、生体だけが供給できる、まだ知られていない「何か」が必要だったのです。