幸せの終わり。隠された闇の真実とは
しかし、3人の幸せも長くは続きませんでした。
「自分たちはなぜ生き別れたのか」という根本の問いに気づいた日から、3人の関係に亀裂が入り始めます。
そして、再会から15年後の1995年、養父との関係から躁鬱病を発症し入院していたエディが、拳銃で頭を撃ち抜き自殺しました。
エディの死に打ちひしがれたボビーとデイビッドも、次第に疎遠になっていきます。
その同じ年、ピューリッツァー賞を受賞したジャーナリストのローレンス・ライトが、ある科学実験に関する記事を発表します。
アメリカの心理学者ピーター・ノイバウアーが主導したこの実験では、養子縁組会社の協力を得て、双子を引き離し、それぞれ経済力の異なる家庭に引き取らせ、どのような違いが起こるかを検証していました。
いわゆる、「生まれ(nature)か育ち(nurture)か」の双子実験です。
この実験に選ばれたのが、まさしくボビー、エディ、デイビッドの三つ子でした。
彼らは、最初に信じていたように偶然の不幸で生き別れたのではなく、極秘に実行された科学研究の一環として意図的に切り離されていたのです。
結果、ボビーは裕福な家庭に、エディは中流家庭に、デイビッドは労働者階級の家庭に引き取られました。3人が生後6ヶ月のことです。
ノイバウアーと研究チームは、それぞれの養父母に「幼児期の発達調査の一環として引き取って欲しい」とだけ告げ、研究の真の目的は誰にも話さずに実験を続けました。
ノイバウアーは、他にも数々の双子実験を行いましたが、その内容はイェール大学に保管され、2065年まで非公開になっています。
残酷な科学実験で人生を奪われた三つ子の物語は、2018年に『同じ遺伝子の3人の他人(Three Identical Strangers)』という題で、ドキュメンタリー映画となりました。
事件発覚から数十年後、もう一度再会したボビーとデイビッドは「身勝手な科学者の実験に心を痛め、怒りを感じている」と話します。
非人道的な科学実験で奪われたエディの命は二度と戻ってきません。
3人がこの世で三度再会する夢はもう叶わないのです。
彼らのストーリーは、環境と遺伝が人格形成に及ぼす影響、そしてそれを実験する是非について、深く考えさせられるものとして語り継がれています。