実験室で偶然発見された放射線を浴びた氷の輝き
強い放射線があたった際のエウロパ表面の反応は、今後打ち上げが予定されているNASAの探査機「エウロパ・クリッパー」によって間近で観測できる可能性があります。
エウロパ・クリッパーは木星を周回しながらエウロパ上空をフライバイして、氷の組成や内部の様子を詳細に調査し、生命の生存できる可能性を模索することを目的にしています。
打ち上げは今後10年間のうちのいつかという計画。
なので、今のところ研究者たちにできるのは、エウロパ・クリッパーが調査に行ったとき、木星の強力な磁気圏から高エネルギー電子放射を受けたエウロパ表面が、どのように見えるのか実験室でシミュレーションしておくことです。
そこで、今回の研究チームは、実験室でエウロパ表面を模倣した水氷のコアに、木星の電子放射を模したMeV(メガエレクトロンボルト)の電子を衝突させるという実験を行いました。
エウロパの表面は、氷と硫酸マグネシウムや塩化ナトリウムなど、地球上でも一般的に知られている塩との混合物だと推測されています。
最初チームは単純なH2O の氷に電子ビームを照射しました。すると電子ビームのあたった氷は可視光で輝きを放ちました。
これはそれほど驚くことではありません。強い放射線を浴びた分子内では電子が高いエネルギーを獲得しますが、すぐに安定した低エネルギーの状態へ戻ろうとします。その際、過剰なエネルギーを可視光として放出するのです。
次に研究者たちは、NaCl:H2O(食塩と水)を50:50の割合で混ぜた塩水を100K(約-173℃)で凍結した氷に電子ビームを照射してみました。 ここで予想外のことが起こりました。
氷は最初の電子ビーム照射より鈍い輝きを放っていたのです。組成によって高エネルギーの電子放射による氷の輝きが変わることは、今まで知られていませんでした。
研究者たちは鈍く光る氷を凝視して、「これ絶対さっきと違うよね? 新発見だよね?」と声を掛け合ったそうです。