微生物が靴のアッパーを作る
キーン氏が靴を作成するために注目したのは、天然素材を生成する微生物です。
微生物とは顕微鏡などを利用してはじめて見える非常に小さな生物の総称で、バクテリア(細菌)もこれに含まれます。このバクテリアには様々な種類があり、その能力も多様です。
その中でも、紅茶キノコに見られるK.レティクスバクテリア(学名:Komagataeibacter rhaeticus)はセルロースという天然素材を効率よく生成してくれます。ちなみに紅茶キノコとは砂糖を入れた紅茶や緑茶にさまざまな微生物をいれて発行させた飲料のことです。
しかしキーン氏は紅茶キノコに見られる微生物が生成する「天然素材」だけに注目したのでありません。むしろ、微生物が素材を「生成する行為」そのものに焦点を当てました。
彼女はこのK.レティクスバクテリアに、靴のアッパー材を「作ってもらう」ことにしたのです。
アッパーとは靴のソール(靴底)を除いた足の甲を覆う部分であり、一般的には牛革や合成皮革、天然繊維(植物や動物の毛)、合成繊維などを人間が加工してアッパー材へと仕上げます。
しかし新しい「微生物織り」と呼ばれる手法では、バクテリアがアッパー材をそのものを生成してくれるのです。