気候調節や、「他惑星の居住性」にも関わる事実
この微生物は、成長の材料として水素ガスに依存しており、嫌気性菌でした。つまり酸素に触れると死んでしまいます。
そのため、チームはまずできるだけ早くサンプルから酸素を抜き、氷河をシミュレーションした環境でサンプルを数カ月に渡って成長させてみました。
ここからは興味深い事実がいくつも発見されました。
まず採取した堆積物の水素ガス生成量は、氷河の下にある岩盤の種類に影響を受けているようでした。
たとえば玄武岩質の岩盤の上にあったアイスランドのカトラ氷河のサンプルは、カナダのアルバータ州にあるロバートソン氷河のサンプルより、はるかに多い水素ガスを生成していました。
これはそこで生活する微生物たちの水素代謝能力にも影響していると考えられます。
また、これらの生物たちは水素ガスと二酸化炭素を使ってエネルギーを生成するので、植物の光合成と同様に地球の気候調節において重要な役割を果たしてると考えられます。
氷河や氷床は、現代の地球でも陸地の約10%を覆っています。過去には今よりはるかに大きな割合を占めていたでしょう。
それを考えると、この微生物たちの活動は、地球の気候に大きな影響を与えていた可能性があります。
氷河や氷床の下に生息する微生物が、炭素を固定できるということは以前から知られていた事実ですが、その方法はこれまで明らかにされていませんでした。
今回の研究の重要な点は、氷河の微生物たちが完全に独立した独自の炭素固定方法を持っているというだけでなく、彼らの方法なら光合成のように太陽光を必要としないということです。
現在、地球以外の惑星の居住性を科学者が評価する場合、水とエネルギー源が重要な要素になっています。
自立した微生物群が、水素ガスによって氷の環境で反映できるという事実は、他の惑星の潜在的な居住可能環境を理解するために重要な知見となるでしょう。
「他の惑星には、氷や氷河がたくさんあります。そこは居住可能でしょうか? もしそこにエリックの研究と同様の岩盤があったとすれば、そこに微生物は住んでいる可能性を否定する理由は、もはやありません」
エリック・ダナム氏の指導教官エリック・ボイド氏はそのように研究の意義を語っています。
酸素もなく太陽光もろくに差し込まない凍りついた星に、生物がいるなんてとても想像できませんが、地球の氷河からはそんな可能性を見いだすことができるのです。