免疫療法の限界を糞便移植で突破する
黒色腫(メラノーマ)は恐ろしいがんです。
黒色腫(メラノーマ)は極めて進行速度が速く、あっという間に全身に転移して患者の命を奪ってしまうことが知られています。
一方、近年の医学の進歩によって、人間に備わる免疫の力を利用する免疫療法が実現しました。
免疫療法では特別な抗体分子(抗PD-1抗体・抗PD-L1抗体)を投与することで免疫力をブーストし、免疫の力で、がん細胞を殺せるようになります。
免疫療法は私たちの自然な免疫力を利用する治療法であり、古い抗がん剤にくらべて高い効果と安全性をもっています。
しかし残念ながら、免疫療法は全ての患者に対して効くわけではありません。
一定数の患者たちは、免疫療法をおこなっても免疫たちが、がん細胞を攻撃してくれなかったのです。
血液成分の分析をはじめ、原因を探るためにさまざまな試みが行われてきましたが、原因は不明のままでした。
そこで研究者たちは実験的な手法として「糞便移植」を行うことにしました。
効果の差が患者個人の遺伝的な違いのせいではなく「腸内細菌の違い」にあると考えたからです。
そのため免疫療法で効果があった患者から糞便を取り出し、効果がなかった患者の腸内に移植しました。
すると、驚きの結果が待っていたのです。
糞便移植を受けた患者の40%で免疫療法が効くように変化し、さらに最も効果があった患者では、がんの縮小が進んで検出できなくなっていたのです。
しかし、いったいどうして糞便の移植で、ここまで劇的な変化が起きたのでしょうか?