歯を失くしたのは「孵化期間」を短くするため?
このナゾは、長年の間、多くの鳥類学者を悩ませ続けています。
初期の頃には、「飛翔時に体を軽くするため」といった説が唱えられましたが、歯のあるコウモリは軽々と空を飛んでいます。
また、「食習慣の変化と関係している」という主張もありましたが、歯の方がクチバシよりも幅広い食料の咀嚼に適しているため、賛同を得られていません。
その中で、最も有力となっているのが、2018年にドイツ・ボン大学の発表した「孵化期間の短縮説」です。
魚類や両生類の産卵とは違い、鳥類は比較的大きな卵を数個だけ産み、孵化までの期間も平均11〜85日と短めです。
卵は鳥にとって最も危険な時期であり、孵化までの期間を短縮することで、種の生存が有利になります。
一方で、かつての非鳥類型の恐竜たちは、孵化までに約3〜6ヶ月もかかっていました。
これは卵の中で、歯の形成に多大な時間を要するためです。
歯の形成は潜伏期間の約60%を占めており、その間に卵が食べられることも多々あったでしょう。
つまり、鳥類は歯を捨てることで、孵化時期を早め、ヒナの生存率を高めたと考えられるのです。
特に、鳥のように、卵を地中に埋めたり隠したりせず、開けた巣に放置する生き物にとっては有効だったと思われます。
「何かを得るためには、何かを捨てなければならない」
これが種の生存の鉄則なのかもしれません。