獲物の重みで沈んで窒息死した⁈
化石は、アマチュア収集家のディーター・ウェーバー氏が、ドイツ南部・オームデンの採石場で発見したもので、専門家に売却後、同国のシュツットガルト国立自然史博物館に保管されていました。
チューリッヒ大学の古生物研究チームの分析の結果、現代のコウモリダコ(Vampire Squid)の古い祖先である「コウモリダコ目(Vampyromorphida)」が2匹特定されています。
コウモリダコは、別名「吸血イカ」とも呼ばれ、「タコとイカどっちなんだ」という感じですが、正確にはどちらでもありません。
タコとイカが種として分化する前から存在している生物です。
化石のコウモリダコは、ジュラ紀(約1億9960万〜1億4550万年前)の初期に生きていたもので、大きい方は全長47センチ、小さい方は全長16.7センチでした。
化石は、軟部組織の痕跡を驚くほど細かく留めており、大きい個体にあった8本の腕と2本のフィラメントも確認されています。
復元図に描かれているように、古代のコウモリダコは、8本の腕の他に、細長い2本のフィラメントが目の下あたりについており、狩猟に使っていたようです。
ところが、獲物を捕まえるまでは良かったものの、捕食に悪戦苦闘している間に、獲物の重みで海底の方に沈んでしまったと思われます。
研究主任のクリスチャン・クルーグ氏は「この海域は当時、中央ヨーロッパの大部分に広がる海盆であり、海底は酸素濃度がかなり薄かったのです。
そのせいで2匹ともに窒息死してしまったのでしょう」と説明します。
皮肉にも、酸素の少ない場所に沈んだおかげで腐食が防がれ、死体を漁る魚も寄り付かず、質の高い保存が可能となったようです。
一方で、今日のコウモリダコは、プランクトンやデトリタス(微生物の死骸や排泄物による微生物粒子)を主食にし、大きな獲物は食べません。
しかし、この化石が示すように、古代のコウモリダコは明らかに同種をも食べる捕食者でした。
これは初期のコウモリダコが、現生種のように低酸素領域には適応しておらず、多様な摂食戦略を模索していたことを示します。
コウモリダコがどのタイミングで同種間の捕食をやめ、低酸素域に進出したのか、こうした点が今後の研究課題となるでしょう。