作れはするけど測定できない反物質
反物質はなんだかSF的な存在で、現実には見つけることも作り出すことも無理であるように感じます。
しかし、1995年、スイスのジュネーブ近郊にある素粒子物理学研究所CERNは、粒子加速器を使って、11個の反水素原子を生成することに成功しました。
反水素原子は、反陽子と陽電子から構成されたもっとも単純な反物質の安定原子です。これは物質と反物質の対称性をテストするための理想的な存在でした。
ただ、こうして生成された反水素原子は、とてつもない速度(光速の10分の9)で打ち出されてきて、すぐに壁にぶつかって消滅してしまいました。
生存していた時間は、わすが数十ナノ秒です。
反物質は、作ることには成功しましたが、とても実験で測定できるような状態ではなかったのです。
そこで、今度は作り出した反物質を減速させる方法が必要になってきました。
今回のALPHAコラボレーションが行う研究は、この部分に関するものです。
以前の研究で、ALPHAコラボレーションは1000個の反水素原子を何時間も磁場の中に捕獲することに成功しました。
これは非常に大きな成果でしたが、それでも反水素原子は磁気トラップの中を、時速300kmという速度でランダムに移動していたため、正確な測定を行うことはまだ困難でした。
物理学において温度とは、原子の運動量のことを指します。原子を減速させて観測したい場合、冷却して温度を下げる必要があります。
捕獲した反水素原子をさらに減速させるとしたら、これを冷却する必要があります。
捕獲した原子を冷却する方法として一般的なのは、捉えた原子を冷たいガスに浸すというものです。それだけで原子を減速させることができます。
しかし、今回の相手は反物質なので、冷えた物質のガスに触れれば対消滅を起こしてしまうため使えません。
そこで研究チームが使ったのが、レーザー冷却という技術です。