ブラックホールの見え方
ブラックホールはどの様に見えるのか?
これは1978年、フランスの天体物理学者ジャン=ピエール・ルミネが長年の観測と分析に基づいて作成した、手書きの予想図までさかのぼります。
このルミネが手書きで描いたブラックホールのシミュレーションは、最近になって初めて撮影されたブラックホールの姿とほぼ一致していました。
彼の予想は非常に正確だったのです。
ブラックホールは光さえ吸い込んで逃さないため、本体は真っ黒で何も見えませんが、その周辺では吸い寄せた物質が作り出す「降着円盤」が、激しい摩擦によって光り輝いています。
その輝きは、ブラックホールの強力な重力場によって歪んで見えるのです。
この詳細な解説に興味のある人は、過去の記事を参照してもらうとして、ではブラックホールが連星だった場合、それはどの様に見えるのでしょうか?
太陽の数億倍という巨大なブラックホールのペアが地球の視線上で重なったとき、それは複雑な光の歪曲を起こすはずです。
NASAのゴダード宇宙飛行センターの天体物理学者ジェレミー・シュニットマン氏は、それぞれの降着円盤を数百万年以上維持できる連星ブラックホールについて、その見え方をスーパーコンピューターを使ってシミュレーションしてみました。
このシミュレーションでは、連星ブラックホールはそれぞれの降着円盤の光を見分けられるよう、それぞれ赤と青に色分けして表示しています。
赤は太陽の2億倍、青はその半分の1億倍の質量を持つ超大質量ブラックホールです。
ちなみに、実際のブラックホールの光はほとんどが紫外線以上の波長を持つため、肉眼で見ることは困難です。
この視覚化では、「相対論的収差」という現象を示しています。
相対論的収差とはブラックホールが見る人に近づくと小さく見え、離れると大きく見えるというものです。
この効果は、通常の連星系を上から見た場合には消失するのですが、連星ブラックホールでは上から見たときにも、奇妙な現象が確認できます。
このときそれぞれの降着円盤の中に、お互いの小さな姿が生成されるのです。
これはよく見ると、片方のブラックホールの側面の光が90度曲がって、私たちに見えているのがわかります。
つまり、連星ブラックホールを上から見た場合、私たちはブラックホールの上部と側面を同時に観測することができるのです。
こうしてシュニットマンは、降着円盤がブラックホールの周りの歪んだ時空を通り抜けるときの経路を計算して、その姿の視覚化を行いました。
しかし、これは非常に複雑な計算で、最新のデスクトップコンピュータを使用して計算しても、動画作成に約10年掛かります。
そこで、シュニットマンは、同僚のブライアン・パウエル氏の協力の下、NASA気候シミュレーションセンター(NCCS)のスーパーコンピューター「Discover」を使って、この計算を実行しました。
「Discover」の持つ12万9千個のプロセッサの2%を使用すれば、この計算は約1日で終わります。
こうしてシミュレーションされた連星ブラックホールの重なる瞬間がこれです。
これは背後にある赤い大きなブラックホールの降着円盤が、非常に複雑に歪んで見える様子を示しています。
ブラックホールの重力レンズ効果を使って、遠くの銀河を観測することもありますが、その場合の光は、この超大質量ブラックホールの連星ほど複雑に曲がりくねったりはしません。
超大質量ブラックホールの連星は稀な存在のため、今回の条件によく似た連星ブラックホールを見つけ出し、直接観測することはかなり難しいでしょう。
しかし、こうしたシミュレーションの結果は、2つの非常に重い超大質量ブラックホールの物理を理解するために役立ちます。
現在の観測技術の進歩を考えると、こうした現象を人類が目にする日は、そんなに遠くないかもしれません。