DNA合成の劣等生には秘密があった

研究は長年の疑問からはじまりました。
生命にとってDNAの正確な複製は細胞分裂を行うにあたって必須です。
しかし哺乳類に存在する14種類のDNA合成酵素(ポリメラーゼ)のうちの1つである「ポリメラーゼ・シータ」はDNAの合成が下手でした。

ポリメラーゼ・シータを使ったDNA合成はとにかく間違いが多かったのです。
なぜこのような劣等生が精度を求められるDNA合成酵素として存在するのか?
これまでの研究では詳しい理由はわかっていませんでした。
そこで今回、アメリカのトーマスジェファーソン大学の研究者たちは劣等生の隠れた資質をみつけるために、発想の転換を行いました。
研究者たちはポリメラーゼ・シータのDNA合成能力が不良であるのは、そもそもの目的がDNAからDNAを合成するのではなく、RNAからDNAを合成するためだと考えたのです。
生物の古典的な理論であるセントラルドグマでは「DNA→RNA→タンパク質」という一連の流れが存在するとしています。
全体の設計図であるDNAから、部分設計図であるRNAが写し出され、その部分設計図を元に個々のタンパク質が合成されるという理論です。
ですが研究者たちは、ポリメラーゼ・シータに対して「RNA→DNA」というセントラルドグマに逆行する合成の流れを予測しました。

この奇抜な発想を確かめるため、研究者たちは実際にポリメラーゼ・シータが働いている細胞にRNA鎖と材料(塩基)を与えて、本当にRNAからDNAが合成できるかを確かめてみました。
結果、衝撃の事実が判明します。
DNA合成では劣等生のポリメラーゼ・シータはRNAからDNAを非常に効率よく正確に合成してみせたのです。
しかもその合成速度はエイズウイルスなどがもつ逆転写酵素とほぼ同レベルでした。
この結果はポリメラーゼ・シータの主な働きが、RNAからDNAの合成であることを示します。
問題は、なぜRNAからDNAを合成する働きが必要なのかです。



























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