強いオスは計画的に「寝取り」を狙っていた
強いオスによる「寝取り」は計画的なものだったのか?
謎を確かめるために、研究者らは22個の水槽を用意し、それぞれの水槽に繁殖期にある「強いオス・弱いオス・メス」の3匹と、住処や産卵場所として最適なチューブを1つ配置しました。
すると、どの水槽でも強いオスはメスを無視して真っ先にチューブの中に潜り込み、エサを食べる時以外は動かなくなりました。
繁殖期にあるにもかかわらず、強いオスがメスを無視したという事実は、研究者たちを驚かせました。
一方、弱いオスはメスに対して盛んな求愛を行っていました。
セルフィンテトラの求愛は、ヒレを広げながらメスの前で行うダンスですが、メスがなかなか受け入れてくれない場合、数日に渡たる過酷なもになります。
またメスの気を引くためのダンスは当然ながら捕食者の注意も引いてしまうため、求愛は命がけです。
そして努力が実りオスの求愛をメスが受け入れると、メスはオスのダンスを模倣し始め、メスの体の表面が黒っぽい色調に変化していき、体内では産卵に向けた準備が進行します。
多大なリスクと労力を支払ったオスの求愛ダンスには、メスの体を産卵モードに移行させる効果もあったのです。
そうして無事カップルが成立すると、オスは本能に従い、産卵に適した場所にメスを呼び込んで、交尾が行われる…はずでした。
しかし水槽の中には、住処や産卵に適した場所(チューブ)は1つしかなく、内部には強いオスが潜んでいます。
カップルが近づいてくると、強いオスは住処から飛び出し、弱いオスに対して攻撃を仕掛けました。
弱いオスは抵抗することもありましたが、結果は全て敗北に終わり、横腹をみせる服従のポーズをとって、逃げていきました。
残されたのは、産卵直前に迫った卵をお腹いっぱいに抱えたメスと強いオスのみ。
時間的な余裕がないためか、メスは逃げた弱いオスを追うことなく、強いオスと交尾しました。
初手で引き籠りを選んで不動産を確保した強いオスは繁殖を諦めたわけではなく「努力しないで産卵直前に仕上げられたメスを配達させ交尾する」最高のタイミングを待っていたのです。