求愛の面倒なしで交尾する戦略
今回の研究により、魚の世界で行われている「努力しないで交尾する」ための方法が示されました。
捕食者の目を引きやすい求愛ダンスを辛抱強く行いメスを産卵モードに移行させるには、本来ならばオスは多大なコストとリスクが必要とされます。
しかし全てを他人に代行させ最終的に暴力で奪うことで、圧倒的な効率を叩きだすことが可能になっていたのです。
これは他人の求愛努力を略奪する生殖戦略は強力にみえる一方で、他者の努力をアテにした寄生に過ぎず、研究者たちは一連の略奪を「求愛海賊行為」と呼んでいます。
海賊も真面目に働く他の船が存在しなければ成り立たない、寄生的な存在だからです。
問題は、強いオスの生殖戦略が求愛海賊行為のみに依存しているかどうかです。
そこで研究者は、産卵に適した住処(チューブ)を大量に用意した追加の実験を行いました。
すると興味深いことに、強いオスは引き籠ることなく、弱いオスと同じようにメスへの求愛にコストとリスクをかけることが確認されました。
この結果は、強いオスは単なる求愛海賊ではなく、必要に応じて通常の生殖手順も実行できることを示します。
強いオスは産卵に適した住処の数や密度を把握し、柔軟に生殖戦略を変えていたのです。
では体格が小さいことにメリットがないのか、というとそうでもありません。
小さな体は消費エネルギーも低いため、飢餓に対する耐性があり、大きな魚が住めないような厳しい環境(ニッチ)でも生きていくことが可能になります。
私たちが想像している以上に、魚の生存戦略は多彩なのかもしれません。