わずか15世代でサケの目が小さくなっていた
サケの養殖技術が確立されたのは1970年代。
そこから現在に至るまで、養殖場のサケはおよそ15世代にわたって人工的環境で生活していました。
この15世代という期間が、サケがたどってきた進化の歴史に比べて極端に短いのは明らかです。
しかし近年の研究により、15世代は生物を別物に変えてしまうには十分な期間であることが示されています。
有名な例では、犬化した狐があげられます。
ロシアの研究者たちが、オオカミからイヌへの過程を再現するために、人間に従順で穏やかな性格の狐同士を交配したところ、わずか数世代で柴犬のような巻き上がった尻尾やぶち入りの毛皮といった体の変化が出現し、犬のように人間になつく個体が現れ始めたのです。
そこで今回、バンガー大学の研究者たちは、養殖されているサケにどのような変化が起きているかを調べることにしました。
養殖環境にすむサケは自然界のサケと違って、人間によって豊富なエサが与えられるだけでなく、卵から成体に至るまでの過程で、天敵から襲われる心配もありません。
そのため、15世代の間に何らかの変化が起きていても不思議はなかったからです。
調査にあたって研究者たちは、ノルウェーやアイルランドなどで養殖されている4000匹のタイセイヨウシャケをさまざまな要素を調べました。
結果、意外な事実に気が付きます。
どの国の養殖場においても、養殖サケたちの目のサイズ(相対サイズ)が、野生のサケに比べて小さい個体が増えていたのです。
この結果は、養殖場という人工的環境が、サケの目を小さくする何らかの変化を誘発していることを示します。
問題は、その変化が遺伝的要因によるものなのか、ホルモンバランスの変化など環境的要因なのかです。
要因を特定するため、研究者たちは養殖場でうまれたサケの稚魚を、自然に近い川の環境で飼育してみました。
結果、養殖場生まれ川育ちのサケの目のサイズは、野生のサケの目のサイズと「違いがない」ことが判明します。
この結果は、養殖場でうまれた目の小さいサケが、過酷な自然環境で全滅し、野生と同じ目のサイズを持つ個体だけが生き残ったことを示します。
小さな目は養殖場で豊富に与えられるエサを食べたり、危険のない環境を生きるには問題なかったものの、厳しい自然界で限られたエサを探し、天敵を感知して逃げることができなかったようです。