安全に視覚野を刺激する
目の不自由な人に対して「視覚をサポートする技術」は、研究が進んでいて、人工網膜を眼球に移植することで簡単な文字やパターンを認識させることに成功しています。
これは映像を取得するための網膜部分のみを機械で補い、あとはもともと体が持っている視神経を利用して視覚を回復させるものです。
しかしたとえば、網膜の進行した変性疾患、重度の緑内障、または視神経に害を及ぼす病状のある患者などは、こうした技術の恩恵を受けることができません。
脳へ情報を送る視神経自体に問題が起きている場合、周囲からの情報は視覚を処理する脳の部分へ直接送信する必要があるのです。
今回の研究チームは、2020年に動物(霊長類)の脳に1000を超える電極を備えたインプラントを移植し、モノの形や動き、文字を認識させることに成功しています。
ただ、動物は盲目だったわけではありません。
そこで、この研究をさらに前進させ、チームはボランティアで参加してくれた16年以上完全に盲目だった57歳の女性の脳に「微小電極」を移植しました。
視覚情報はメガネ型のデバイスに取り付けられた人工網膜によって、利用者の前方の光景を取得します。
この情報がインプラントへ送信され、その電気刺激によって脳の視覚野が映像として解釈するのです。
脳へデバイスを移植するといわれると、非常にマッドで恐ろしい印象を受ける人も多いかもしれません。
しかし、今回の技術は非常に安全性の高い脳インプラントであるところが、重要なポイントとなっています。
インプラントの幅はわずか4mm、電極の長さは1.5mmで、96個の微小電極を備えています。
この極小電極は、大脳皮質の機能に影響を与えず、また隣接する非標的神経細胞も刺激することがありません。
また既存のデバイスに比べて、必要電流がはるかに少ないため、より安全に使用できる可能性が高まっているのです。
実際、実験が終了した6カ月後に、このデバイスは被験者から安全に取り外されています。