白黒の毛皮は「カモフラージュ」として機能していた
ほとんどの哺乳類は、黒や茶、白、灰色といった単色の毛皮で覆われています。
しかし、シマウマやスカンク、シャチのように、白黒の体模様をまとっている動物もいます。
その中で最も有名なのが、ジャイアントパンダ(学名:Ailuropoda melanoleuca)でしょう。
野生のジャイアントパンダはすでに中国にしかおらず、もっと言うと、南西部の四川(しせん)省の一部にしかいません。
研究チームは今回、その野生下で撮影されたパンダの貴重な写真をもとに、カモフラージュ効果を調査しました。
高度な画像処理法を用いて分析した結果、黒い毛皮は、森林の暗い影や幹の深い色と調和し、白い毛皮は、川辺の石や雪景色に溶け込んで、パンダを隠していることが分かったのです。
下の写真をご覧ください。どこにパンダがいるか、瞬時に判別できるでしょうか。
動物園のパンダはすっきりとした背景のおかげで見えやすくなっていますが、野生下だと、これほど見えづらくなるのです。
また、ごくまれに見られる野生パンダの淡い茶色の毛皮は地面の色と一致し、自然下における非常に暗い色と非常に明るい色の間の視覚的要素のギャップを埋める中間色となっていました。
この結果は、人間、ネコ科、イヌ科のいずれの視覚モデルで見ても一貫しており、ネコ科とイヌ科はパンダの天敵でもあります。
つまり、パンダの毛皮は、捕食者から身を守るカモフラージュとして機能していると言えます。
体が「分裂」して見える効果も
チームは次に、カモフラージュ法の一種である「ディスラプティヴ・カラレーション(disruptive colouration、分裂的配色)」についても調べました。
これは、動物の体表面に見える境界線により、全体の輪郭が分裂して見えるというもの。
要は、違う色の模様をまとうことで、体のまとまりを分裂させ、別々の生き物に見せたり、見えづらくしたりするのです。
野生パンダを遠くから観察したところ、白黒の境界線により分裂して見えたことから、ディスラプティヴ・カラレーションの効果も備えていることが示されました。
最後に、新たなカラーマップ技術を用いて、パンダのカモフラージュ能力を、伝統的にカモフラージュが上手いとされる他の生物と比較しました。
すると、パンダの背景への溶け込みは、カモフラージュレベルの高い生物と同等であることが確認されています。
これらの結果は、「パンダが自然下であからさまに目立つ」という神話を完全に覆すものです。
野生下のパンダはほとんど見えない?
研究主任で、ブリストル大学(University of Bristol・英)の生物学者であるティム・キャロ(Tim Caro)氏は、こう述べています。
「中国の同僚が送ってくれた野生パンダの画像を見たとき、どこにもパンダが写ってないので非常に驚きました。
高い視力を持つ私たち霊長類でも見分けられないなら、視力に劣る捕食者たちには、よりパンダが見えていないということです」
また、同チームのニック・スコット=サミュエル(Nick Scott-Samuel)氏は、次のように指摘します。
「ジャイアントパンダが目立って見えるのは、鑑賞距離が短いことと、背景がクリアであることが要因です。
一般的な写真や動物園においてパンダがよく見えるのは、そのためでしょう。
しかし、より現実的な捕食者の視点から見ると、パンダはうまくカモフラージュされて、ほとんど見えないのです」
パンダは、私たちの直感に反して、隠れ身の達人だったようです。