悪魔か、救世主か
寄生バチは主に、コバチ科・ツチバチ科・コマユバチ科・ヒメバチ科に分かれ、種類も豊富に存在します。
寄生バチのメスは、蛾や甲虫のイモムシに産卵管を刺して卵を産み付けます。
その中で孵化した子どもたちは、宿主となったイモムシを内側から食いあさり、成長のための養分とします。
宿主は大抵、殺されてしまいますが、中には、毒針を打ち込んで「ゾンビ化」させ、子どもたちのゆりかごにする寄生バチもいます。
彼らの残酷なふるまいを見て、かの有名なチャールズ・ダーウィンは、次のような言葉を残しました。
「慈悲深き全能の神が、イモムシの体を貪り食うことを意図して、寄生バチを創造したとは、私には納得できない」
※こちらの動画は、寄生バチのライフサイクルを写した映像です。虫が苦手な方、お食事中の方は、閲覧にご注意ください。
確かに、寄生されるイモムシからすれば、寄生バチは悪魔以外の何モノでもないでしょう。
しかし、彼らは私たち人間からすると、救世主でもあるのです。
害虫に寄生して、2000万人の命を救った
1970年代、ブラジルからの外来種として、キャッサバ・コナカイガラムシ(学名:Phenacoccus manihoti)という作物害虫が、アフリカに侵入しました。
この虫はキャッサバ畑に急速に広がり、80%もの作物損失をもたらしたのです。
キャッサバは干ばつに強いため、地元民の主食となっており、タピオカの原料としても使われています。
この被害で約2億人の食生活を脅かしました。
ところが、現地で調査をしていたスイスの昆虫学者、ハンス・ルドルフ・ヘレン(Hans Rudolf Herren)氏が、コナカイガラムシに寄生するハチを見つけたのです。
そこでヘレン氏は、この寄生バチを繁殖し、実験資金を募ったあと、飛行機を購入して、作物被害を受けている地域に寄生バチの繭(まゆ)を空輸したり、地上に放ったりしました。
放たれた寄生バチは自力でコロニーを拡大し、数年かけてコナカイガラムシの数を管理可能なレベルまで減らすことに成功したのです。
この取り組みにより、推定2000万人の命と数十億個の作物が救われ、農薬の使用も回避することができました。
ヘレンはこの功績により、1995年に世界食糧賞(World Food Prize)を受賞しています。
もしこの寄生バチの活躍がなければ、近年のタピオカブームもなかったかもしれません。