農薬に比べてメリットだらけ
寄生バチによる害虫駆除の成功例は、これだけではありません。
英名で「サムライバチ(samurai wasp)」と呼ばれる寄生バチは、アメリカ大陸において、農作物に害をなすクサギカメムシの”成敗”に成功しています。
他にも、歴史的建造物や遺物に被害を与える蛾を防ぐためにも、寄生バチが用いられています。
カナダでは、森林破壊の原因となっているアオナガタマムシを駆除する目的で、少なくとも4種の寄生バチが放たれました。
しかも、寄生バチに頼ることは、農薬や殺虫剤に比べて、メリットだらけなのです。
まず、農薬や殺虫剤は、人の手で散布しなければならないに対し、寄生バチは自力で繁殖し、害虫を狩ることができます。
また、害虫をピンポイント駆除できるので、農薬のように作物を傷めることもありません。
それから、農薬は繰り返し散布する必要がありますが、寄生バチは自然に世代交代をしてくれるので、一度放つだけで十分です。
さらに、寄生バチは約75万種いると推定され、ほとんどの害虫に対応できると考えられます。
あと大事なポイントですが、人を襲うこともありません。
その一方で、懸念すべき問題がないわけではありません。
たとえば、害虫を退治するために、外来種の寄生バチを導入することがよくあります。
外来種が馴染みのない土地に入ってくることで、生態系のバランスを崩すおそれがあるのです。
寄生バチではまだ例が記録されていませんが、過去にオーストラリアで、害虫駆除のためにオオヒキガエルを導入しました。
当初の反応が上々だったのですが、毒を持つオオヒキガエルは、それをエサとする在来生物にとって致命的となったのです。
寄生バチにも宿主を麻痺させる毒があるので、それを食べる鳥に影響が出ないとも限りません。
しかし、生態系に害がないと確認できれば、これほど便利な害虫駆除はないでしょう。
彼らがいなければ、世界中の作物のいくつかは、害虫にやられて失くなっていたかもしれません。