ダイヤモンドに封印された新種鉱物
「Davemaoite」は、地表から約660~2700kmも地下にある下部マントルで見られるような高圧・高温の環境でのみ存在できる物質なのだといいます。
もしこの鉱物が地表へ向けて上昇してきた場合、通常はその過程で分解されてしまい、別の物質に変化してしまします。
そのため、地球表面には存在していないのです。
しかし、今回の発見では、この「Davemaoite」がダイヤモンドの中に埋め込まれる形で保持されていました。
上の画像が発見されたダイヤモンドで、その中の黒い斑点のような部分が、「davemaoite」なのです。
ダイヤモンドが持つ硬度のおかげで、内包物が高圧に保たれて、地球奥深くからそのまま運ばれてきたのだと、チャウナー氏は説明します。
このダイヤモンドは、数十年前にボツワナにある世界最大のダイヤモンド鉱山「オラパ鉱山」から掘り出されました。
1987年、ある宝石商がこのダイヤモンドを米国カリフォルニア工科大学の鉱物学者ジョージ・ロスマンに売却しました。
そしてチャウナー氏とロスマン氏は、数年前からこのダイヤモンドに閉じ込められた鉱物の調査研究を始めたのです。
X線で調べてみると、ダイヤモンドに含まれた黒い斑点は、そのほとんどがケイ酸カルシウム(CaSiO3)でできているとわかりました。
ケイ酸カルシウムは、生成されたときの温度と圧力によって、さまざまな結晶形態をとることができます。
ダイヤモンド内に閉じ込められていたのはペロブスカイト型と呼ばれる結晶構造で、地下660~900kmの温度と圧力下でのみ形成されるものです。
高圧ケイ酸カルシウムのペロブスカイトを実験室で作った研究は1975年に報告されていたため、科学者たちは下部マントルにこうした鉱物が存在するはずだということは理論化していました。
しかし、実際自然に形成されたこの鉱物の地質学的なサンプルは見つかっていなかったのです。
ところが2018年に、別の研究チームが南アフリカで、同様にダイヤモンドに閉じ込められたケイ酸カルシウムペロブスカイトの発見を報告していました。
ただ、その研究チームは、新種鉱物の正式な発見を届け出なかったため、チャウナー氏が自分たちの研究について国際鉱物学協会へ届け出ることにしたのです。
こうした経緯があったので、チャウナー氏らも、自分たちの名前を鉱物に付けにくかったのでしょう。
そこで、チャウナー氏は中国・上海の高圧科学技術先端研究センターの所長でこの分野における高名な研究者であるマオ氏に連絡を入れ、彼の名前を新種鉱物に付けてもいいか尋ねたのです。
マオ氏は快くその申し出を受けました。
ちなみに、マオ氏の名前を冠した高圧鉱物が国際鉱物学連合で承認されるのは、今回が2例目で、2018年にも衝突クレーターから発見された別の新種鉱物が「maohokite(マオホーカイト)」と名付けられています。
チャウナー氏によると「Davemaoite」は、地球の下部マントルに含まれる3つの主要鉱物の1つであり、そこに約5~7%を占めているだろうとのこと。
中でもこの物質は、ウランやトリウムの放射性同位体元素を含んでいて、これらの放射性崩壊は、地球の地殻とコアの間にあるマントル下部において大量の熱発生源となっています。
そのため、「Davemaoite」は、地球深部の熱の移動や循環を管理し、プレートテクトニクスなどのプロセスを推進する重要な役割を果たしていると考えられるそうです。
「Davemaoite」はカリウムが豊富な地域のダイヤモンドからより発見できる可能性があるため、今後チャウナー氏はそうした場所を探してみると話しています。